ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
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マルコム・グラッドウェルの最新刊「What the Dog Saw: And Other Adventures」のなかで学んだ興味深いコンセプトに、リスク・ホメオスタシス(Risk homeostasis)というものがあります。

What-dogドイツでのタクシーでの研究ですが、交通事故のリスクを軽減するために普通のブレーキよりも静止距離の短いアンチロック・ブレーキを導入したのですが、交通事故の頻度は予想に反して、まったくかわらなかったのです。この予想外の結果の原因のをよくよく調査してみると、アンチロック・ブレーキを導入した車のドライバーは、速度を上げたり、急停車を試みたりリスキーな運転をする傾向があったのです。アンチロック・ブレーキにより軽減されたはずのリスクを、べつのリスクを冒すことにより相殺していたというのです。

リスク・ホメオスタシスとはGerald J.S. Wildeが提唱する説であり、上の例が示唆するように、ひとにはあらかじめ定められたリスク総和のレベルがあり、このレベルに沿って行動が規定されている。ある一つのリスクが下がると、別のリスクを冒して(チャレンジして)リスクの総和を定められれべるまであげようと(意識的・無意識的に)行動してしまう。ということだと理解しています。

それでは、新しいことにチャレンジするためのマインドセットを育てるために、私たちがリスク・ホメオスタシス説から学ぶべきことはなんでしょうか。

もし人の行動を規定するあらかじめ定められたリスク総和のレベルがあるのならば、何かチャレンジをするためには(ある部分でのリスクを上げるためには)、別の部分でのリスクを下げる必要があるはずです。

それではチャレンジするマインドセットには何が必要なのでしょうか。チャレンジをするために必要なのは勇気であることは間違いはないでしょう。しかし、一見勇気ある選択(リスクを上げる選択)も、もう少し全体的な視点でみれば別のリスクを下げる賢い選択とセットになっていることも(一般には気づかれにくいが)以外に多いのかもしれません。

リスク・ホメオスタシス説にしたがうと、チャレンジ精神を育てるとは、いかにセキュリティーを高めるかという一見正反対の行動を学ぶことなのかもしれません。

チャレンジ精神とは勇敢なリスク・テイクであると同時に、賢明なリスク・ヘッジでもあるのでしょう。


参考:「交通事故はなぜなくならないか―リスク行動の心理学」(ジェラルド・J.S. ワイルド (著), Gerald J.S. Wilde (原著), 芳賀 繁 (翻訳) )

参考:スティーブン・ピンカーによる「What the Dog Saw: And Other Adventures」の書評(ニューヨーク・タイムズ)








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5号館のつぶやきstochinaiさんが「やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論」についてのエントリーを書いて下さいました。「5号館のつぶやき」は私の推薦する理系の自己啓発のための10ブログの一つで、stochinaiさんは政治・経済・研究と幅広いトピックについて毎日発信していらっしゃるタフなブロガーです。また、「進化から見た病気 (ブルーバックス) 」をはじめ複数の本を出版され、「世界一受けたい授業」にも出演されてた経験をおもちのハイプロファイルな研究者です。そのstochinaiさんから、本書が:

”研究者として生き残り成功するためのノウハウのエッセンスを凝縮した”


本であるというお褒めの言葉を頂き光栄です。

stochinaiさんがおっしゃるように、

自分の回りにいる研究者を見渡してみても、その多くが本人すらどうして自分がこの業界で生き残ってこられたのかがわからないという状況の下、多くの若い研究者やその卵が自分の将来に対する自信を無くし、この業界に進むことすらあきらめてしまうという不幸も数多く見聞きします......


ベテランの研究者でさえ”自分がどうしてやってこれたのかわからない”ことがあると思います。

もしこの状態がつのってImpostor Syndrome(インポスターシンドローム:自分の成功や業績を自らの実力であると信じる事ができない状態。今までの成功はただ単に運がよかっただけだと思い込み、いつまでも自分に自信がもてない状態)のような心理状態になったときには、自分の歩んできたキャリアを振り返ってみて、あとづけで理論やストーリーを与えてあげるために自己啓発系のビジネス書を読むのもよいではないでしょうか。

また「仕事術を学ぶことで、創造性を発揮することができるのか」を問うた最終章に関しても:

最後に書かれている「創造性」についての章が、多くの研究者が悩むところの「自分には天才のひらめきがないのではないか」という点に関して、創造などというものは科学の発展の中で必然的に到達する新たな地平にすぎず、きちんとした研究者なら誰だって手にすることのできるものなのだという、力強い励ましで締めくくられるのも、さわやかな読後感の理由のひとつかもしれません。


と”さわやかな読後感”をもっていただけたようでなによりです。

stochinaiさん書評ありがとうございました。



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研究留学ネットの門川さんが「やるべきことが見えてくる 研究者の仕事術」の書評を書いてくださいました

本書は、従来、ビジネスパーソンに向けて書かれた様々な仕事術や理論を、ビジネスパーソンとは全く異なる職種である科学者に、モディファイしながら、アプライするというあらたな試みをした一冊です。

本書は研究者ビジネス書としては、おそらくはじめての著作であると同時に、マスターピースとも言える一冊だと言えます。



私が米国で研究室を立ち上げる際に苦労した経験から、”研究者ビジネス書”の必要性を強く感じていました。門川さんが指摘されているように、今後”研究者ビジネス書”の必要性が徐々に日本でも高くなっていると思われます。

また、門川さんは最終章「創造性とは(Creativity and Effectiveness)」で、私が言いたかったことを、的確に汲み取ってくださっています。

著者はロバート・K・メルトンの言葉を引用しています。それによれば、

創造性とは誰も出来ないような斬新な考え方をする、他人とは質的に異なる「ユニークな能力」ではなく、必然的に起ころうとしている発見を誰よりも早くつかみ取る「効率のよさ」のこと


としています。つまり、本書で提唱してきた効率的に仕事をできる方法を身につけることが、研究者において創造性を高めることと矛盾しない、と著者は結論したいのだと思います。



「創造性」はトレーニングで高めることができると私は考えています。純粋な創造性というものがあるのかどうか私にはわかりませんが、ここでのカギ括弧付きの「創造性」とは社会的に決定される創造性であり、養老先生の言う「天才の条件は世の中に広く理解されること」とよく似ています。

たとえば、十数ケタの暗算ができる人は、電卓のない時代には天才と呼ばれていたが、
いまや天才とは呼ばれない。時代が価値を認めなければ天才ではない。

「天才を測るモノサシは脳の中ではなく、われわれの社会の中にある。」

                山田ズーニー:大人の小論文教室



「創造性」は発現するまであるかどうかさえ定かではありませんし、誰かが認めないかぎり発現しているということさえ定かではありません。しかし「創造性」が私的なものでなく、社会によって定義されるものであり、社会のなかにある限り、効率的に社会とつながる・効率的に仕事ができるようになるということは「創造性」へのアプローチとしては至極まっとうなものであるとわたしは考えます。

最後にニュージーランドへの休暇中にもかかわらず、書評を書いていただいた門川さんに感謝いたします。








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プロフェッショナルの定義にはその人の経験に基づいた考えや価値観が反映されるものです。「大隅典子の仙台通信」の大隅さんが、「やるべきことが見えてくる 研究者の仕事術 プロフェッショナル根性論」の書評を書いてくださったブログエントリーで、ご自分のプロフェッショナルの定義を披露されています。

....NHK総合テレビの「プロフェッショナル 仕事の流儀」の中で、最後に「あなたにとってのプロフェッショナルとは?」という問いに対する答えの言葉が話されますね。私だったらこんな風に。

"プロフェッショナルとは、最高のレベルの仕事を最短時間で仕上げる人"

時間をかけたら良いものができる、というレベルはプロではないと思うのです。
                      
大隅典子の仙台通信



なるほど。Strengths-based approachのなかで述べた「強み」のなかでも、最高レベルの仕事を目指す人の気質(タレント)である「Achiever(達成欲)」や「Maximizer (最上志向)」をもち、さらに最高の効率で仕事を達成する情熱を保てるひとがプロフェッショナルの一つのカテゴリーを占めることは間違いないでしょう。素晴らしい。

大隅さん書評ありがとうございました。



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9784758120050.jpg羊土社で最近まで連載していました「プロフェッショナル根性論」を加筆・修正しまして一冊の本にまとめた「やるべきことが見えてくる研究者の仕事術」が出版されます(8月21発行)。

もともと「プロフェッショナル根性論」は、私がボストンで研究者として独立する上で身をもって学んだ”学校では教えてくれないレッスン”を文章にして、多くのひとと共有する目的ではじめました。理系研究者が見過ごしがちであるが、不透明な世の中を生き抜く上で不可欠な”文系的”スキルについて短時間で学べる新書を当初は意図していました。

しかし、往々にして本は著者の意図とはやや違う方向へむかっていくと聞いてはいましたが、「プロフェッショナル根性論」にも同じことが起こったと、ご厚意により本の帯に推薦の言葉を書いた頂いた梅田望夫さんに教えていただきました:

「本書は“知的生産で飯を食う”人生を志すすべての人のためのサバイバルガイドである」

          ―『ウェブ進化論』著者,梅田望夫氏より推薦


梅田さんにご指摘していただいたように、当初理系のための文系的スキルについて書き始めました「プロフェッショナル根性論」は、内容を練り推敲を重ねるうちに理系・文系を問わず知的生産を志す人が勇気と自信をもって進めるように後押しする「やるべきことが見えてくる研究者の仕事術として生まれ変わりました。梅田さんの本質を見抜く力と、それを言葉にする文章力には感服いたします。

例えば知的生産を志すものが避けて通ることができない「創造性とは努力で高めることができるのか」という問いに関する第11章

「創造性とは? Creativity and Effectiveness:グラハム・ベルが不慮の事故で亡くなっていたら、電話は存在しなかったのか」


羊土社のホームページから立ち読みできるようになっています。

章立ては以下の通りですが、付録として「研究者の自己啓発とキャリア形成のための20冊」や「成功する恐怖」などのコラムを加えました。表紙はイラストレーター/グラフィックデザイナー・ペドロ山下さんの力強いイラストレーションをつけていただきました。

詳細は羊土社のホームページをご覧ください。

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術

第1章:プロフェッショナル研究者への成長の道 
第2章:「 好き」よりも「得意」にこだわる仕事術 
第3章:プロダクティビティーを上げる時間管理術 
第4章:自分の世界で一番になる ニッチマーケティングで自分の研究を売り込め
第5章:批判され/批判して自分を磨く「フィードバック力」 
第6章:変化に対する苦痛・恐怖を克服する 
第7章:自分のストーリーを語る「物語力」  
第8章:説得力のあるプレゼンテーション 
第9章:日本人中年男性研究者のための英語力向上戦略
第10章:検索される自分 : 発信力 
第11章:創造性とは Creativity and Effectiveness 

付録:研究者の自己啓発とキャリア形成のための20冊
1)生産性を高めるための人生管理術の古典的自己啓発書2冊
2)コミュニケーション力とは人付き合いと人柄のことであると理解する2冊
3)プロフェッショナル研究者としての心得を学ぶ2冊
4)学校では教えてくれない“正しい” キャリアパスを知る2冊
5)起業家から失敗を恐れつつも、挑戦する方法を学ぶ2冊
6)一流のサイエンスストーリーテリングを学ぶ2冊
7)メインのメディアでは報道されないアメリカを知る2冊
8)アメリカの医療の問題点を知る2冊
9)自分の考えを人に伝えるための極意を学ぶ2冊
10)不確実な時代を生き抜くための知見を学ぶ2冊

コラム
1:35歳からの15 年間こそ自分の成長を意識した攻めのキャリアプランを
2:ラボメンバーの「強み」
3:哲学者モンテーニュも400 年前にSBA 仕事術を推薦?
4:Not to do リスト
5:「自分の世界」を設定する際に犯しやすい7つの間違い
6:自分のキャパシティーを見極める 
7:つっこみ力
8:これからの時代のビジネスに必要な学位はMBA ではなくMFA
9:「成功する恐怖」
10:変化を促進する米国流研究システム 
11:アイディアをスティキーにする方法
12:プレゼンテーションは最低3回リハーサルを
13:うまく質問するために覚えておくとよい10 のポイント
14:英語の勉強に役立つインターネットで手に入るフリーのリソース
15:メンタルトレーニング(修練の場)としてのブログ






                       


プロフェッショナルとして強いキャリアを築くためには、


まず自分の小さな世界で一番になることが必要条件である
      ー自分の世界でトップになるためにすべきこと:Dip



とセスゴーディンのDipを引用して、以前のエントリーで書きました。研究者にとってこの「自分が一番になれる小さな世界」に相当する適切な言葉が「Investigational Niche」です。研究において二番煎じは原則として意味がありません。どんな些細なことでもいいので、何か新しいこと、何かオリジナルなことをなさなければなりません。激しい競争のなかで、自分が何か新しいこと、何かオリジナルなことをしていける場所(つまり、まずは研究費がとれて、論文が発表できる。そして中長期的には社会に貢献できる一次的な舞台)が「Investigational Niche」なのです。

じつは、”Investigational Niche」を確立せよ”とは、わたしが以前に研究所のボードメンバーの数年おきの審査を受けたときにもらったアドバイスです。独創的で、創造性のある研究を目指すのは非常に大切なことですが、今独立を目指している研究者への、実際的なアドバイスは”Investigational Niche」を確立せよ”だと思います。

PS:ところで、オバマ大統領の導入した新しいチャレンジグラントのアプリケーションの作成におわれて一ヶ月程ブログを更新できなかったのですが(チャレンジグラントはおそらく今までで最も競争の激しいグラントになると思われます。全米で200程度が採択されるのですが、私の所属するボストン小児病院だけでも軽く200以上のアプリケーションがサブミットされました。サブミットはオンラインなのですが、あまりに多くのアプリケーションが締め切りまぎわの数日間にアップロードされたたため、システムが一時ダウンしました。最終的な採択率は1%を切るともいわれています。)、いつも私のブログ見てくれている日本にいる母親が、私が倒れたのではと心配して電話をかけてきてくれました。ブログは安否の確認に使えるのですね......


テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

bii_P2DOOR TO DOOR(ドア トゥ ドア )~僕は脳性まひのトップセールスマン~は、実在の脳性麻痺のセールスマンBill Porterを描いた原作「Ten Things I Learned from Bill Porter」と2002年のアメリカのテレビドラマ「Door to Door」の日本版。主演は二宮和也。サブタイトルからわかるように、脳性麻痺という障がいをもつ主人公が、一見もっとも困難と思われる飛び込み営業の仕事で、セールスマンとして成功するというストーリーです。

脳性麻痺の主人公には、ビジネス書やビジネススクールが教えるようないわゆる”コニュミケーション能力”や”プレゼンテーション能力”を発揮できるわけではないのですが、彼のメッセージは彼の人柄とともに顧客や同僚の心に響くのです。もちろんドラマ化されてはいるが、コニュミケーション能力というのはスキルの部分は最終的にはあまり重要ではなく、結局は人柄なんだなと思い知らされます。

(大切なことーその1-) コミュニケーション力=ひとがら

ドラマでは、母親役の樋口可南子が主人公である息子役のお弁当に励ましのメッセージを添えるのですが、特に印象に残ったのが:

(大切なことーその2-) チャンスはピンチの顔をしてやってくる

というものです。危機という言葉がdanger(危)と opportunity(機)という2面性をもつように、物事が大きく変動するときにはピンチとチャンスが同時に生まれ、ピンチとチャンスは変化の表と裏の顔なのですが、どっちが表でどっちが裏なのかは最後までわからないもでなのです。






テーマ:言霊(格言・名言・自分の考え) - ジャンル:学問・文化・芸術

オハイオで大学院生として過ごす日々を綴る」のichishojiさんが、梅田さんのブログと、関連した私のブログを読んだことに端を発して、オハイオで留学することになった経緯を振り返って:

...でも、実際に当時の自分を動かしていたのは「思い込み」だった。これまで、この「思い込み」がかなり重要な役割を果たしてきた。....「時代の力」「周囲の人の力」「自分の能力」「思い込み(感情)の力」それらが合わさったものが「自分の力」になる。


と「思い込む力」が自分のキャリアや人生の方向性を決める上での重要性を指摘されています。これには私も同意します。そして、一つ付け加えるならば、周りのひとが「思い込んでくれる力」、少し言い換えれば「(いい方に)誤解してもらえる力」が実に重要じゃないのかと感じています。

人生には時々「いい方に誤解してもらえる」ことがあります。過大評価(自分が考えているベクトルと同じ方向で、その幅が正の方向に大きい)の時もありますが、予想外の好評価(自分が考えているベクトルとは違う方向にポジティブに)というのが、新しい自分の方向性を決める上で重要なことがあります。

人に誤解してもらって、やっと自分の強みとはこれだったんだとわかってきた経験が自分にもあります。また、みうらじゅん氏も「みうらじゅん対談集 正論」に関するインタビューで「(人が成長していくためには)誤解されてなんぼのもんでしょう。」というように答えていたと思います。

「時代の力」の強い場所には、人物評価について非常にシビアで保守的な人も多いのですが、オプティミスティックで精神的余裕がありいい方に誤解してくれる人も同時に沢山います。「時代の力」を非常にミクロな視点でみれば、その一つは「よく誤解されるチャンスの多さ」です。自分のあまり理由のない自信や思い込みに、周りからの誤解が加味されて、自分の実力以上のものが生み出されることがある。おだてられてついつい大きな挑戦をしてしまう。これがすべて成功するわけではありませんが、たとえ失敗しても「時代の力」の強い場所にはもう一度挑戦できるセカンドチャンスがある。

必要以上に偶然性や他力を強調しないように注意しなければなりませんが、”計画された偶然性”、”予定された他力”、”期待される誤解”の重要性を過小評価することもまた危険だと思います。

テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

梅田望夫さんの「自分の力と時代の力」講演録(JTPAシリコンバレー・カンファレンス2009年3月21日

(94、95年の頃は)時代の大きな波に押されて、たいした実力もないのに、元気の良さだけで、こっちで仕事を得ることができました.........

いまは「時代の力」が衰微していますから、こういう時ほど、自分に投資して「自分の力」を高める時なのです。



前半部分は基本的に大賛成です。昨年読んだ本で最も影響を受けたナシーム・ニコラス・タレブの「まぐれ(Fooled by Randomness)」で強調されているように、成功者の人生というのは、後づけで様々な成功の必然性を語ることはできますが、実際のところは大部分は「時代の力」による「運/まぐれ」なのです。タレブが言うように、現代のように高度に不確実な時代では、「時代の力」によるポジティブな偶然性を積極的に当てにするという姿勢が、成功のための最も重要な姿勢のひとつであると思います。

しかし後半部分の「今は時代の力が弱っているから、それを当てにせずに、もっと自分の力を高めよ」というメッセージは行間を読む必要があります。世界の時代の力の平均値がたとえ低下していても、現代は高度に不確実な時代という点では10年15年前と何ら変わりありません。むしろより不確実で予想不可能な時代になってきています(不確実性の増大にインターネットは大きく貢献しています)。ですから今後は、ますます「時代の力」によるポジティブな偶然性を積極的に当てにするという姿勢が大切になってくると思います。全体に時代の力の平均値が低下していても、局所的には時代の力が強い場所があるはずです。以前はどこに行こうとも、時代の力の後押しを享受できた時期がありましたが、今は時代の力の強い場所を見つけて、そこに身を置くということが、単に自分の力を高めるということ以上に大切だと感じています。

実は梅田さんの講演には、こんなことはおり込み済みだと思います。

最後になりますが、もし皆さんが20代前半だったら、留学することをお勧めします.....アメリカで間違いなく良いのは、一流大学と研究機関なんですよ。アメリカの競争力のすべての源泉はそこにあると言ってもいい。だから、2年でもいい、できれば3年、5年留学することを、皆さんの非常に重要な選択肢として考えてほしい、この時代だからこそ、ということを最後に申し上げて、おしまいにしようと思います。



この部分を「時代の力の強い場所を見つけて、そこに身を置くべし」という意味に私は解釈しました。





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ニューヨークタイムズではTalk to the Newsroomという各セクションのエディターに読者が質問できるコーナーがあります。サイエンスセクションのエディターLaura Changに対する質問で「サイエンスレポーターの職業につくにはどんな教育やトレーニングが必要ですか」というものがありました。

Laura Changによると、現在のニューヨークタイムズのサイエンスセクションのスタッフにはおおむね大学でサイエンスの教育を受けた者が多く、Ph.D.を持っているひともいます。そして、フォーマルなサイエンスの教育を大学で受けていることは、知識の点や、現場の科学者の心情を理解する上で役立つことも多く、また応募者の履歴書を見る際に、サイエンスのバックグラウンドを持っている応募者に若干多く注意を払う可能性があります。


NYT03202009Aしかし、サイエンスのバックグラウンドを持たない有能なサイエンスレポーターもいます。その一例がアポロ月着陸の記事”MEN WALK ON MOON”などで知られる現役の記者John Noble Wilfordです。Wilfordの2009年1月の最新の記事は「From Arctic Soil, Fossils of a Goliath That Ruled the Jurassic Seas 」。サイエンスのバックグラウンドを持たない記者の強みは常に一般の人(laymen)の視点を忘れないことでしょうか。


Laura Changは続けます:

サイエンスジャーナリズムで重要なのは、あなたが何を知っているか(what you know)ではなく、サイエンティストらが知り得たことをあなたがどれだけ理解し(how you learn what other people know )いかにそれを人に伝えるかである(how you convey that knowledge to other people)



また、John Wilfordはこう言います:

どんなに広くサイエンスを大学で学んでいても、実際のジャーナリズムの現場で出会う出来事はあなたの専門領域とはかけはなれたものであるはず。サイエンスジャーナリズムの現場で必要な科学に関する基礎知識すべてを大学で網羅することなどできない.....
No matter how broadly you are educated in college, in the real journalistic world, something you cover will be out of your field. You cannot be exposed to all the things you need. In 10 years you'll be learning things your professors didn't know."



そして、サイエンスジャーナリズムに必要な資質とは、

ー何にでも好奇心を持てる(curiosity about just about everything)
ー競争心がある(a competitive nature)
ー精神的/肉体的スタミナがある(mental and physical stamina)
そして、当たり前ですが、
ーシャーナリストとしての基本ができていて、高い倫理をもっている(a grounding in the basic practices and ethics of journalism, which are best learned through experience)



正論で普通すぎて参考にならないかも知れませんが、これが一般論として言える最大限のことなのかもしれません。また、バックグラウンドが何であれ、実際に現場での経験から学ぶべきことが重要なのでしょう。ただ、まずエントリーレベルのサイエンスジャーナリストとしての職に就くためには、大学でのサイエンスのバックグラウンドはプラスであることに間違いはないでしょう。


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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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