ヤフーの元マーケティングディレクターSeth Godinはマーケティングのグル(カリスマ)として知られている。Seth Godinの最新刊「The Dip」は素晴らしい。彼の著書のなかでも最高である。そのサブタイトルが「いつ仕事を辞めるべきか(または残るべきか)がわかる小冊子 [A Little Book That Teaches You When to Quit (and When to Stick)]」とあるが、洋書のビジネス書籍のなかでも日本人のメンタリティーに非常によく合う一冊である。
この本の肝は日本人なら誰でも理解できるこのコンセプト:
将来のために今の苦労を厭わない
を戦略的にビジネス・コンサルタント風にリフレイズしたものに近いが、重要なプラスアルファがある。
1)自分の世界で一番になることが成功の必要条件である。 マーケット(商品だけでなく人材も)は高度に多様化し、またインターネットにより瞬時に無限に近い選択肢がアクセス可能である。この無限に近い選択肢は人びとを精神的に豊かにしただろうか。Barry Schwartzの「The Paradox Of Choice: Why More Is Less」が言うように、あまりにも多数の(普通は数十以上)の選択肢を提示されると、ひとは選択肢の豊富さに喜びを感じるのではなく、むしろ圧倒され麻痺してしまい自分でよく考えて選択することを放棄してしまう。そして何らかの(客観的に見える)基準を自分の外にもとめる。多くの場合それが売れ筋ランキングであり、よく売れている(多くの人が使っている)のだから間違いないだろうという発想である。その結果ランキングトップのものはさらによく売れ、メガヒットとなる。つまり「トップになるための最大の戦略はドップになることである」というパラドックスが生まれる。
3)Dip makes Scarcity. Dipのコンセプトは右図のようになる。何事も最初は新鮮で楽しい。ビギナーズラックも手伝いProductivity/Happiness(縦軸)も上がっていく。しかし、そのうち何事にも壁が訪れる。そこではProductivity/Happinessが極端に落ち、とても苦しく、誰もが辞めたい、途中下車したいと強く思う。これがDipである。