ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
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dip
ヤフーの元マーケティングディレクターSeth Godinはマーケティングのグル(カリスマ)として知られている。Seth Godinの最新刊「The Dip」は素晴らしい。彼の著書のなかでも最高である。そのサブタイトルが「いつ仕事を辞めるべきか(または残るべきか)がわかる小冊子 [A Little Book That Teaches You When to Quit (and When to Stick)]」とあるが、洋書のビジネス書籍のなかでも日本人のメンタリティーに非常によく合う一冊である。

この本の肝は日本人なら誰でも理解できるこのコンセプト:

将来のために今の苦労を厭わない

を戦略的にビジネス・コンサルタント風にリフレイズしたものに近いが、重要なプラスアルファがある。

1)自分の世界で一番になることが成功の必要条件である。
マーケット(商品だけでなく人材も)は高度に多様化し、またインターネットにより瞬時に無限に近い選択肢がアクセス可能である。この無限に近い選択肢は人びとを精神的に豊かにしただろうか。Barry Schwartzの「The Paradox Of Choice: Why More Is Less」が言うように、あまりにも多数の(普通は数十以上)の選択肢を提示されると、ひとは選択肢の豊富さに喜びを感じるのではなく、むしろ圧倒され麻痺してしまい自分でよく考えて選択することを放棄してしまう。そして何らかの(客観的に見える)基準を自分の外にもとめる。多くの場合それが売れ筋ランキングであり、よく売れている(多くの人が使っている)のだから間違いないだろうという発想である。その結果ランキングトップのものはさらによく売れ、メガヒットとなる。つまり「トップになるための最大の戦略はドップになることである」というパラドックスが生まれる。

世界(マーケット)でトップになるのは簡単ではない。ほとんど不可能に近い。しかし、自分の世界(マイクロマーケット)でトップになるのは可能である。なぜなら、「自分の世界」を決める自由度は自分にあるのだから。

例1:あるひとが腰痛を見てもらう世界の名医を探す場合、多くの場合自宅から通院できる範囲内の整形外科医であり、「世界」はめったにその地方外やましてや海外まで広がらない。したっがて、その地方でトップの腰痛専門の整形外科であることは成功の必要条件である。

例2)セミナーの講演者を探す場合にもある特定の分野の専門家で、話しが面白いという評判があり、当日来てくれる(できれば近く)という要件が「世界」を規定する。したがって、全世界に行く前に「まずは自分の研究室、その次には自分の研究所・大学、さらには数時間以内にアクセスできる地方、そして自分の国」で「そのトピック」を研究しているひとたちの集まりが、研究者にとって順次広げていく「自分の世界」である(その中でトップになることが成功の必要条件)。

2)Scarcity makes values
しかし、いくら「自分の世界」設定しようにも自分と同じような能力、スキル、リソースを持った人がたくさんいれば自分は「交換可能」な人材でしかない。ほんの少しだけ早く、安くする人が選ばれ「誇り高きプロフェッショナル」にはなれない。

そこで、経済の基本原則「Scarcity(希少さ)が価値を生み出す」を思い出そう。Scarcityが「自分」を価値のある、交換不可能なものにする。さて、「Scarcity=自分と同じ(市場価値のある)能力をもつひとが非常に少ない」という状況はどんなメカニズムで創られるのであろうか? その肝がDipである。

Dip Chart13)Dip makes Scarcity.
Dipのコンセプトは右図のようになる。何事も最初は新鮮で楽しい。ビギナーズラックも手伝いProductivity/Happiness(縦軸)も上がっていく。しかし、そのうち何事にも壁が訪れる。そこではProductivity/Happinessが極端に落ち、とても苦しく、誰もが辞めたい、途中下車したいと強く思う。これがDipである。

Dipは例えば、
・学歴・資格取得のための長期間の学習
・低収入(無収入)&重労働のトレーニング、インターン、下積み
・高度のストレス、重大な責任
・単調でクリエイティブでない仕事
・長期間の年功序列
・耐え難い職場の人間関係
・暗礁にに乗り上げた、なかなか結果のでないプロジェクト・事業
等々

そして、このDipで多くのひとがドロップアウトしてしまう。Dipを超えたものだけがScarcity(希少価値)を享受することができる。

したがって、Dipの途中で辞めることは、それまでに賭けた時間と努力を無駄にする。

dead endそれでは、何でも辛抱して続ければいいのかというとそれはちがう。上図のようにDipの向こう側でScarcityに伴いproductivity/happinessが著しく上昇する場合のみDipをこえる価値がある。いくら辛抱してもまったく報われないCul-de-Sac (フランス語でデッドエンド、右図)はDipではない。

Cul-de-Sac に貴重な自分の時間を費やしてはならない。その道がDipかCul-de-Sacかを歩き始める前に見極めることが重要である

さらに、一歩進んで、

Dipのあるキャリア・パスを戦略的に選び、希少で交換不可能な「自分」をつくる。

そして、その場合のみ「将来のために今の苦労を厭わない」が正しいキャリアアドバイスである。

そして歩き始める前に4/11のエントリー「世界でトップになるためにすべきこと」にある7つの質問を吟味し、Dipを乗り越えられるかReality Checkをしよう。

Sethによれば、「自分の世界」でトップになれないのは(=Dipを乗り越えられないのは)「きちんと計画できていない」か「ゴールにたどり着く前にやめてしまう」からである。

1. You run out of time (and quit).(時間がなくなって途中でやめてしまう。

2. You run out of money (and quit).(資金を使い果たして途中でやめてしまう。

3. You get scared (and quit).(失敗するのが [または成功するのが] 怖くなって途中でやめてしまう。

4. You’re not serious about it (and quit).(実はそれほど本気ではなかったので途中でやめてしまう。

5. You lose interest or enthusiasm or settle for being mediocre (and quit).(情熱を失いほどほどで妥協してしまい途中でやめてしまう。

6. You focus on the short term instead of the long (and quit when the short term gets too hard).(長期的な視点をもっていないので、目先の困難にくじけて途中でやめてしまう。

7. You pick the wrong thing at which to be the best in the world (because you don’t have the talent).(自分のstrength(s)にマッチしないテーマや仕事にとり組んだため途中でやめてしまう。)


[関連エントリー]
世界でトップになるためにすべきこと
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-64.html>

[関連ブログ about 交換不可能]
小野和俊のブログ「梅田望夫氏が言うように、好きなことを貫いて仕事にしていくためにはどのようにすればよいのか」
<http://blog.livedoor.jp/lalha/archives/50167531.html>







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テーマ:本の紹介 - ジャンル:学問・文化・芸術

Dipの先
Dipの向こう側でScarcityに伴いproductivity/happinessが著しく上昇する場合と、いくら辛抱してもまったく報われないCul-de-Sac (フの見分けるための基準ってあるのでしょうか?
おそらく状況に応じて変化するとは思われますが、Dipで諦めてしまうときの理由としてそれがCul-de-Sacだと考えてしまうからだと思います。
【2007/06/19 Tue】 URL // mken #m7R1riTQ [ 編集 ]

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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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