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文部科学省のハイリスクプロジェクトをサポートする新しい”研究補助金制度”は、米国政府の同様の目的のグラント制度の問題点がら学ぶべき点(とくに模倣すべきでない点)がある。

「失敗恐れないで」ハイリスク研究に補助金 文科省検討
Ashahi.com (2007年05月11日16時29分)

失敗を恐れずに挑戦を――。文部科学省は、成功の見込みが「十に一つ」程度でも、大きな成果につながる可能性があると判断した研究に対して、新たな補助制度を設ける検討を始めた。近年、成果が確実と期待される研究に補助金が集中し、革新的な研究が出にくくなったとの反省がある。選考方法や補助額などを詰めて、来年度の制度創設を目指す。

 対象は(1)才能や先見性を実績で示した研究者が試みる、従来とは違う分野の研究への取り組み(2)従来の学問分野を超えた新しい分野の研究(3)現在の技術では実現が難しい高い目標を掲げたテーマに挑戦する研究、などを想定している。(3)は個性的なベテラン研究者が目標を設定し、若い研究者が挑戦する形などを模索している。

 選考では非現実的なテーマを避けながらも、例えば数人の選考委員のなかで1人でも特別に評価すれば対象にするなど、無難な選択にならないような仕組みを工夫する。「十のうち九はダメかも知れない」(文科省)危険性が高いため、最初は補助額を抑え、進展状況をみて打ち切ったり、増額したりできる制度も検討している。

 文科省によると、最近の研究費補助金は、審査側ばかりでなく、研究者側も特許や論文として成果が確実な課題を申請する傾向が強い。平均的には評価が高く全体の水準を押し上げる効果があるが、「自由な発想による面白い研究が減っているのではないか」との指摘が出ている。

 科学技術振興機構によると、米国では近年、複数の機関が、確率は低いが成功すれば研究分野の発展や産業への影響が大きい「ハイリスク・ハイインパクト」研究を対象にした助成制度を設けた。アイデアや研究者個人の独創性や可能性が重視された研究、太陽光貯蔵などの野心的な研究が採用されている。

 文科省は「異端かも知れないが、アッと驚くような成果が得られる研究を掘り起こしたい」としている。



米国政府のバイオメディカル研究に対するグラントの最もスタンダードのものはNIHR01である。R01を獲得するためには研究費に見合う成果を保証できるだけのpreliminary dataと申請者の十分なトラックレコード(主として発表論文の質と量)が必要である。とくにpreliminary dataは非常に重要であり、例えば「新しいマウス疾患モデルの作成」を申請する場合は、「新しいマウス疾患モデル」がすでに(少なくともほとんど)作成されていることを示すpreliminary dataがないとグラントが獲得できない (レビューアーにプロジェクトの成功を信じてもらえない。

ちなみにR01の5つの審査基準は:
Significance: この研究は重要か?(Does this study address an important problem? )
Approach: アプローチは適切で、よく練られているか?(Are the conceptual or clinical framework, design, methods, and analyses adequately developed, well-integrated, well-reasoned, and appropriate to the aims of the project? )
Innovation: オリジナリティーとイノベーションは?(Is the project original and innovative? )
Investigator: PIのトラックレコードは十分か?(Are the PD/PI(s) and other key personnel appropriately trained and well suited to carry out this work? )
Environment: 研究室と周りの環境(大学・研究所の設備)は?Do(es) the scientific environment(s) in which the work will be done contribute to the probability of success?

Approachが適切であることと研究成果を高い確率で保証するものがpreliminary dataである。競争が激しくなった現在は、R01は成功が約束されたローリスクのプロジェクトに集中する傾向にあり、8割程度完成したプロジェクトを大量のpreliminary dataと共に申請することがグラント獲得のキーとなりつつある。

NIHはR01とは別枠でハイリスクプロジェクトをサポートするグラントR21を導入している。

The R21 is intended to encourage exploratory/developmental research projects by providing support for the early and conceptual stages of development......These studies (supported by R21) may involve considerable risk but may lead to a breakthrough in a particular area,....



R21も上記の5つの審査基準で評価されるが、preliminary dataに対する比重は低くするようにレビューアーは指示されている。NIHの研究費が贅沢であった時代にはpreliminary dataなしでR21が獲得できた(らしいが)、現在はR21もかなりのpreliminary dataがないと成功は難しく、本来ハイリスクであるR21のローリスク化が進んでいるように思う。

R01の詳細な申請書の形式(シングルスペース25ページ)と上記の5つの審査基準に基づいたStudy Sectionによる徹底的なレビューはローリスクのプロジェクトを評価する(同時にローリスクのプロジェクト申請を推進する)にはおそらく世界で最も優れたシステムである。

しかし、ハイリスクのプロジェクトを評価するにはまったく違ったシステムが必要となるのではないか(とくに、研究費の総額が限られている場合)。

そこでひとつの案として(誤解を招くかもしれないが)審査もハイリスクにしてみてはどうだろうか。

案1)複数のレビューアーによる総合的な評価ではどうしてもWell-rounded(角のとれた丸い)プロジェクトが選ばれやすい。誰か一人が独断で決めるリスクを冒してみてはどうか。

案2)逆にWisdom of crowds(「みんなの意見」は案外正しい)を信じてインターネット上でオープンに評価・審査・投票してみるというリスクを冒してみてはどうだろうか。環境が整えばWisdom of crowdsは少数の専門家集団より正しい決断を下す。


補足:
1)R01はローリスクでインターミディエート~ハイリターンのプロジェクトを好む。
2)R21はハイリスクでハイリターンのプロジェクトを好む。
3)ローリターンなプロジェクトは審査基準”Significance”で低く評価される。
4)”研究補助金制度”はハイリスク・ハイリターンプロジェクト向きではない。ハイリスク・ハイリターンプロジェクトには必要な研究費全額を与えるグラントタイプの研究費が必要である。

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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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