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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
「医学研究は人類の健康の増進・難病の撲滅に大きなインパクトを与えるというマニフェストは本気なのか、それとも研究費をとるためのスローガンにすぎなのか」と心のどこかで思っている研究者は結構いるかもしれない。この問題に関連したコメントをトロント在住ポスドクさんからいただいた。

...... 僕がつい悲観的になってしまう根拠は、1990年代のアルツハイマー病研究の失敗(あえて、あの巨大な研究費で、この成果?という意味で、失敗ではないかと考えています)からの教訓です。あれだけ、Nature, Science, Cellにたくさんの成果が発表されたにもかかわらず、劇的な進歩があったでしょうか?..... MD.PhDだから、基礎科学と基礎医学をつなぐ研究は得意に違いありません。だけど、若い人たちに、何百万人を救う可能性があるので、研究者になりなさいという意見は少しフェアではないのではないかと考えるようになってきました ......



ものを創る・価値を生み出すという創造/生産のプロセスには「歩止まり」という概念がある。

歩止り(ぶどまり). 各種の素材からそれぞれの製品を作る場合に、使用した素材の量に対する出来上がった製品量のこと



R&D (Research & Development)ではRの部分のuncertaintyが低く(基本的な原理が解明されている)、Dに対する投資の量が多くなるほど歩止りは高くなる。例えば、自動車が動く基本的原理は解明されているので、TOYOTAはDに対する投資が大きく「カイゼン」などの概念を取り入れ、歩止りが100に近くなるようなシステムを構築した。

これと比較して、病気の治療薬の開発は多くの場合は、基本的な生命の原理・病気のメカニズムさえ完全には解明されておらず、R&Dに対する投資のほとんどはRに対してであり、それにもかかわらずRの部分のuncertaintyは依然高く、結果として製品の歩止まりは非常に低い。つまり、ほとんどの基礎研究の結果は直接はまたすぐには製品には反映されない。

「Rのuncertaintyが高く、歩止まりが低い基礎医学研究」という事実を目の前にしたときに取り得るいくつかのアプローチのうちの2つは:

1)DO; とにかく基礎研究の層を厚くするために、自分のできる研究をして論文にする。その蓄積がsearchableなデータベースをとおしてオーブンソースとしての医学研究知識体系を造り上げる。特に、過去の失敗から学ぶためにネガティブデータをpublish(少なくともonlineでは)し、データベース化する必要がある(これは今後のシステムの問題。 例えばJournal of Negative Results in Biomedicine)。知識の蓄積にともない徐々にRのuncertaintyは低くなり、歩止まりが上がっていく(または、歩止まりが低くても、打ち続ければそのうち標的にヒットする。)

2)QUIT; 歩止まりが低い領域に自分の時間を使うのは割に合わないので、歩止まりの高い別の分野に移る。

(1)(2)のどちらを選択するにせよ、3/3のエントリーでとりあげたSir Winston Churchillの「成功の定義」を思い出してほしい。

Success is the ability to go from one failure to another with no loss of enthusiasm.



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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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