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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
ハーバード大学医学部は、Quadと呼ばれる長方形の芝生の広場を囲むコの字型をしており、Quadの奥には医学部のシンボルであるGordon Hallが位置します(写真)。Quadは多目的広場として使われ、普段は学生がサッカーなどして遊んでいますが、卒業のシーズンには巨大なテントが設営され卒業式会場に変わります。
Gordon Hall

ラボを自分で始めるまでは、医学部と大学院では幅広く自然科学と医学の教育とトレーニングを受けてきましたが、いわゆるビジネスの教育を公式に受ける機会はありませんでした。しかし、ラボを運営することはスモールビジネスと同じであり、サイエンスをする力だけでなく、マネージメント、グラントライティング、プレゼンテーション、ネットワーキングなどなど普段理系の授業では学ぶことのほとんどないスキルセットが本当に重要であることがわかってきました。
私は独立したあとであわててビジネス書を読み始めました。大学院から少しでもよいので勉強しておくべきであったと少し後悔しています。またMBAを取ろうかと本気で考えて、Information sessionにも参加しました。しかし時間的・金銭的な負担を考えて、最終的にはMIT, Harvard Extension, Babsonの3校で、ビジネスのコースを各セメスターに一つずつ選択的して受講しています。

Principle Investigator (PI)(ラボの運営者)として、最も大切な仕事のひとつにポスドクに担当してもらうプロジェクトの決定があります。生物学で実験を必要とする研究領域では、新しいプロジェクトを始めれば、論文として完成するまでに2から3年はかかるので、プロジェクトの決定はラボとポスドクの運命を決める重要な瞬間です。この重要な意思決定のプロセスにおいて私が一番大切にしていることは単純ですが「そのポスドクの長所にかける」ということです。

これは、Marcus Buckingham & Curt Coffman の「First, Break All the Rules」より学んだことですが、私の考えを根本的に変えました。以前は私は適切にトレーニングすれば(+根性で)、Biochemist をImmunologistに、 M.D. をStructural Biologistにプロジェクトに応じて変えることができると信じていました。しかし、Buckinghamらは、ひとは生まれついて(または成人する過程で)得意な分野には5車線の太い神経回路が形成され、それ以外の分野には1車線で対面通行するしかないような細い神経回路しかなく、この車線の数はトレーニングでは変更でない。したがって、(少なくとも仕事においては)苦手分野を克服することは非常に困難で非効率的であり、成功のためにはむしろ得意分野を伸ばすべきであると述べています。(もちろん、神経回路の表現は比喩ですが)

このStrength-based approachは、本当に大事なことで、PIは自分の研究計画に愛着があるので、どうしてもポスドクをプロジェクトに合わせようとしますが、むしろ優秀なポスドクを選び、その人にプロジェクトを合わせた方が、遙かによい結果がでると思います。
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テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術


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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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