2009年は米国でも日本でも科学研究費というものをより強く意識した1年であったと思います。そして今、鈴木光司の「
ループ」の一節を思い出しています。
「ループ」は私の中では日本のSFベスト5に入る傑作です。「ループ」(98年)は大ヒットホラー小説「リング」(91年)と「らせん」(95年)の続編ととらえることもできますが、「リング」「らせん」をモチーフにした独立したSF小説と考えた方がより適切でしょう。ストーリーは「リング」「らせん」での怪奇現象が実は”ループ”というコードネームの生命をシュミレーションする壮大なプロジェクトに起きたバグから始まったというものです。
クライマックス近くで主人公の馨は”ループ”プロジェクトの指揮者エリオット博士と対峙します。そこでの二人の会話は10年以上前に書かれたにも関わらず今日の研究者に多くの示唆を与えてくれます。
エリオット:「ところで、世界が何で動いているか、君は知っているかね」
馨:「現実の世界ですか、それともループ」
エリオット:「現実もループもその点はうまく重なっている。両方とも同じ原理で動く。 いいかね、世界を動かすものは、予算だ」
.........科学は、社会情勢を無視してやみくもに一直線に進歩するのではなく、そのときどきの事情に応じ、向かうべき方向をかえてゆく。そして、予算はそのときどきの社会事情や国家間の思惑、、、要するに人々がまず第一に何を望んでいるかという最優先事項によって決定されることが多い。70年前、来るべき未来図を描く中でメイン舞台とされたのは、広大な宇宙であった。火星や月はまるで人間の植民地のように扱われ、惑星と惑星はスペースシャトルの定期便で結ばれている。だれもがそんな未来をイメージし、映画や小説の題材として扱われた。
だが、それから現在まで、火星どころか月にさえ、人間が運ばれることはなかった。人類が月に到達したのは、あの輝かしい一瞬だけである。それ以降宇宙計画は牛歩の歩みに徹し、牛のごとき眠りについていしまった。その理由はひとつ。ーーーーー予算がつかなかったから。
------鈴木光司「ループ」-------
米国の大学では基本的にすべての研究や教育はプロジェクトとして行われています。原理的にはプロジェクトの予算を獲得し続けることができれば、リーダーやスタッフにも定年や任期はなく、精神力と体力の続くかぎり、その活動を続けることができます。しかし、予算がつかなければ.....
プロジェクトを指揮する立場になって最も強く感じたことは、プロジェクトをプライマリーに動かしているのは”アイデア”と”熱意”つまり”人”です。そしてアイデアと情熱をもった人を雇うためには予算が必要だということです。
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