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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
ニューヨーク・タイムズのサイエンス・コラム「ドット・アース」の11/28の記事「Innovation Report Card(イノベーションの通知表」という記事で、欧州諸国によるThe Innovation for Development Reportが、世界各国の”イノベーションを起こしうる総合力(Innovation Capacity Index: ICI) を評価したところ、世界の”一流国”と見なされる27国(収入や政治形態から判断して)の中での総合ランクは、1位スウェーデン、2位フィンランド、3位米国であったそうです。ちなみに日本は13位。”(131カ国全体では1位スウェーデン、2位フィンランド、3位米国、で日本は15位)

イノベーション力”をベンチマーキングした同様の試みに、米国によるInnovation Indexがありますが、米国以外の国が作製したものであるということと、経済・社会のルール等により焦点を当てたことが、Innovation Capacity Indexのユニークな点であると考えられます。

ICIは次の5つの大きな項目のパフォーマンスを総合的に評価し点数化したものです(詳細はこちら

1.Institutional Environment(政治・経済のルールがイノベーションをサポートしやすいか)
2.Human Capital, Training, Social Inclusion(教育のレベル・女性の社会参加等)
3.Regulatory and Legal Framework(スタートアップを企業しやすいビジネス環境か)
4.Research and Development(研究のアウトプット、インフラ、パテント等/単位あたり)
5.Adoption and Use of Information and Communication Technologies(ITのインフラ、一般家庭、政府・公共サービスのIT普及度)


それぞれのカテゴリーでの順位を見てみると:
1.Institutional Environmentでは、日本(35位)、スウェーデン(6位)、フィンランド(6位)、米国(22位)

2.Human Capital, Training, Social Inclusionでは、日本(29位)、スウェーデン(4位)、フィンランド(3位)、米国(17位)

3.Regulatory and Legal Frameworkでは、日本(17位)、スウェーデン(11位)、フィンランド(19位)、米国(5位)

4.Research and Developmentでは、日本(4位)、スウェーデン(2位)、フィンランド(3位)、米国(5位)

5.Adoption and Use of Information and Communication Technologiesでは、日本(22位)、スウェーデン(2位)、フィンランド(7位)、米国(9位)

日本はResearch and Developmentではトップクラスですが、他のカテゴリーでは2流のようです。


科学研究費に対するインパクト:
この結果をもとにして、科学研究費について考えてみます。ICIの結果の一つの解釈としては、総合的に見て日本のイノベーションを起こす力は、グローバルなレベルでは2流にランクされてしまいます。しかしその2流の位置でさえなんとか維持できているのは、Research and Developmentでの米国を総合的に上回る日本の一流のパフォーマンスのおかげであるとも考えられます。これは日本の研究者と研究に関連した仕事に就いている人が誇りにすべき素晴らしい業績だと思います。米国にくらべ日本の研究環境が劣っていると信じられていますが、おそらく非常な個人の努力もあって、日本の研究者は非常によくパフォーマンスしているのです。しかし、これは決して科学研究を減らしても大丈夫だということにはなりません。以下の3つの理由により、むしろ逆なのです。

1)Research and Developmentの最も重要なリソースである人的資源はいったん枯渇してししまうと、その回復に途方もない時間がかかるフラジャイルなものである
2)弱み(他のカテゴリー)をある程度克服することも必要であるが、強み(Research and Development)にさらなるリソースを注入するStrengths-based approachが競争力を高めるのにはより適している
3)イノベーションこそが社会に価値・付加価値をもたらし、雇用を生み出し、中長期的に貧困を減らし、社会を豊かにするものである

科学研究費を今削減することが、中・長期的に国家の競争力と次の世代の生活の豊かさにどれだけネガティブなインパクトをもつかという中・長期的な視点こそが、科学政策の争点の中心になるべきであると私は考えます。


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テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

島岡先生のご意見に全く賛成です。
しかしながら、マスコミも世間も今回の仕分けを絶賛していて、新型インフルエンザの流入時期に神戸の街を行く人が皆マスク着用になったのと同様、ある流れが出来てしまうと集団ヒステリーのように一斉にそこへ流れてしまう今の日本では、日本のサイエンスにとって冬の時代がやってくるのは避けがたい状況の様に思えて仕方がありません。
一方では、アンフェアな研究費およびポジションの配分も(個人的な意見として)横行していますから、本来はサイエンスにはそぐわないはずの「談合的体質」の改善も必要と思います(これはシステムの問題ですが)。
いずれにせよ、自分自身が一流とは言いませんが、今回の日本での研究環境を取り巻く状況を見るに、「日本に帰りたいと言う気持ちが全く起こらない」のが、海外でPIになった者の共通の感想ではないかと思います。
母国の先行きを思うと、寂しい限りです。
【2009/12/06 Sun】 URL // Dr Ken #HfMzn2gY [ 編集 ]

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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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