
その年に出版された最も優れた長編小説に与えられるイギリスの文学賞であるブッカー賞を2002年に受賞したヤン・マーテルの「
パイの物語(Life of Pi)」。これほど予想を裏切られた本はありません。
童話調の美しい表紙と内表紙の絵地図から、主人公の少年”パイ”とベンガル虎”リチャード・パーカー”を乗せた貨物船がインドからカナダへの航行中に太平洋に沈没し、少年と虎は227日間漂流しメキシコにたどり着くというあらすじはおおよそ予想できます。
読み始めるとパイが最終的には救助されることもわかり、これは漂流という困難を乗り越える少年パイの成長プラス動物との心の交流を描いた感動の”癒し系小説”と勝手に思い込み、多いに油断して読んでいました。読み始めるにつれ、生存のためには捕まえたウミガメの甲羅を引きはがして生き血を吸わなければならない自然の過酷さや、少年と虎との緊張関係などこの小説が単なる童話ではないことが徐々にわかりますが、その展開にもほぼ満足。土曜日の午後に大部分を読み、最後にはハッピーエンドで心が洗われることを期待し、最後の50ページは日曜日に残して就寝することにしました。
そして日曜日の朝、最後の50ページを読み終えたときのショックは忘れられません。油断して読んできただけに、癒し系のエンディングを期待してきたでけに、その落差は大きかった。ネタばれになるといけないのでこれ以上は書けませんが、このショックはブラッドピットの「
セブン」のエンディングに匹敵します。
「パイの物語」は一筋縄にはいかない、実は非常に難解な物語です。エンディングを含め読者が何通りにも解釈できる部分がたくさんあり、ウェブ上にもこの小説の解釈や感想を議論するフォラームやブログ、またYouTubeに読書ガイド(下記)もあり、関心の高さをうかがうことができます。「パイの物語」はおそらく一度読めば決して忘れることのできない小説です。
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