ひとまえで話すことの恐怖(fear of public speaking)は統計上常に死の恐怖(fear of death)を上回っているそうです。fear of public speakingの為に非常に良い昇進の話を断る人もかなりいると聞きます。
我々の研究所ではNational Academyメンバーを含めた著名な研究者からなる外部委員会(Scientific Advisory Board Members)からのサイエンスのproductivityの評価を毎年受けています。今年はちょうどこの週末にオフシーズンのリゾートホテルに研究所全員(17のラボ)で出かけ、そこにボードメンバーを招き3日かけてじっくり評価を受けてきたところです。PIのトークとポスドクのポスター発表が中心で、基本的にはフレンドリーな雰囲気ですが、サイエンスの点ではボードメンバーは全く妥協がなく、彼らに向けてプレゼンテーションするときには緊張のあまりfear of public speakingで胃が痛くなり、(いつものことながら)逃げ出したい気持ちになりました。
それではfear of public speakingを緩和する特効薬や技術はあるのでしょうか。何冊か本を読んだり、セミナーに参加したりしましたが、最も参考になったのはマリナーズのイチローの言葉です。イチローは「大記録を目前にバッターボックスに入るときにいかにして上手にプレッシャーをマネッジするのか」という質問に対して、「そんな方法はない」ときっぱり答えました。正攻法で真っ正面から取り組み、終わるまでプレッシャーから解放されることはないのだと。これは「プレッシャーを楽しむ」いうようなきれいごとではないでしょう。とにかくプレッシャーに押しつぶされながらもやリ抜く以外に、本質的にプレッシャーから解放される方法はないのでしょう。
したがって、おそらくfear of public speakingのプレッシャーを上手く緩和する方法も当然ないのでしょう。とにかく、真正面から取り組んで、終わらせるしかないのでしょう。周到なプレゼンテーションの準備は必要ですし、私はとくに英語での発表は過剰な程周到に準備する方ですが、いくら準備してもfear of public speakingがなくなったことは一度もありません。