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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
米国の医学研究(Biomedical Research)は、ご存じのように政府(NIH, National Institutes of Health)からの科学研究費(グラント)に大きく依存しています。米国では主として大学教授などの独立した科学者の数が(図のApplicants: NIH R01にアプライできるAssistant Professor以上相当)が過去10年でほぼ2倍に増えています。しかし、2003年までは科学研究費の伸びが大きく、ポジションの増加に見合っていたため、グラント成功率 (図のSuccess rates)は約30%と横ばいでした。しかし、それ以降(ブッシュ政権では)科学研究費は伸び悩みます。しかし、新しいポジションは同じペースで増加しており、競争は激化し、現在グラント成功率は20%を切っています。もちろん米国の科学者は様々なルートで政府に働きかけ予算増加を画策しています。
Nature NIH funding


しかし、先週号のNatureの記事「Universities and the money fix」でBrian C. Martinson(HealthPartners Research Foundation)はかなり冷静な視点で次の重要な(しかし、ひとが語りたがらない)問題を提起しています。

このまま科学者の数を増やす必要があるのか?


(イノベーションを生み出すために)本当に必要なのは必ずしも科学者の数を増やすことではなく、今すでにいる科学者に十分なリソースを与え、現状維持のためだけの(イノベーションを生み出ださない)研究をやめて、新たな視点と方法で問題に取り組めるような環境ではないのか:what is needed is not necessarily more people, but more time, space and freedom for existing researchers to ask questions in new ways, to be willing and able to take risks, and to innovate rather than simply writing safe, incremental grants.


成果主義も度が過ぎると、かえって保守的になり、ハイリスクな研究にチャレンジすることを抑制してしまうでしょう。したがって、競争の激化を調節する方法の主要なファクターは研究費の増加または申請者(科学者)数の制限でしょう。その意味で上記の「”新しい人”の流入を抑え、”古い人”に新しい考え方をさせて科学全体の水準を保つ」という考えも一理あります。

しかし「”古い人”が新しい考え方する」ことは簡単ではなく、やはり新しい血(知)を”新しい人”から注入することをやめれば、科学の衰退は必至でしょう。

米国での状況は厳しいですが、同号のNatureの記事「A pipeline for Europe」でTony Hyman & Kai Simonsは欧州での研究者のキャリア・パスが全く確立されておらず不透明であることの問題を指摘し、米国での厳しい研究費獲得競争にもふれて

米国では(お金はなくとも)ルールがあるだけましではないか。(US scientists may have a hard time finding money, but at least the ground rules are clear. )


と語っています....







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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

ネットをサーフしていて貴殿のブログをみつけました。興味深いタイトルの日記、なかなか考えさせられるとこもあり楽しく拝見いたしました。

上記のブログについては自分にも経験があるので一筆コメントを投稿いたします。

ハーバードのような超保守的な学閥では「”新しい人”の流入を抑え、”古い人”に新しい考え方をさせて科学全体の水準を保つ」では今までと全く変わりがないのでは?それより「古い人(tenured tenured)にどんどん引退していただいてもっと新しい人にtenureをあげる」というのも一案ではないかと思いますが・・・
【2007/10/19 Fri】 URL // 元ハーバード教員(non-tenured) #- [ 編集 ]

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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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