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ハーバード大学分子生物学部の昨年 (2006) のPrather記念講演は、米国のアカデミックセレブリティの一人であるUCLA地理学教授Jared Diamond博士が「文明」について人類生態学的観点から考察するという分子生物学部としては非常にユニークなものであった。

Diamond博士は、ハーバード大学で生物学を学び、ケンブリッジ大学で生理学で博士号を習得後、研究領域を人類生態学と広げ、UCLA生理学教授を経て、現在は同校地理学教授である。作家としても有名であり、1998年に「Guns, Germs, and Steel (邦題: 銃・病原菌・鉄)」でピュリッツァー賞を受賞している。「Guns, Germs, and Steel」はニューヨークタイムズベストセラーに100週間以上ランクインしている。2005年に出版した「Collapse(邦題:文明崩壊)」もまたベストセラーである。

ハーバード大学での講演では、文明の「多様化」「崩壊」「繁栄への条件」をテーマに3日におよび講演をおこなった。講演は大盛況であり、のべ3000人近い聴衆を集め、講堂に入れない2000人以上の人々にもモニターを通じて放映された 。

Diamond博士によると、文明の「多様化」は民族的背景よりもはるかに強く環境的要因に影響を受ける。文明が多様化し繁栄すると、それにともない環境破壊が進み、これが文明「崩壊」の契機となる。「崩壊の契機」に直面したときに、文明が巻き返して「繁栄」していくか、そのまま「崩壊」に向かうかは、社会の核となる価値観(Core value)を再評価し、選択的に書き換えることのできる危機管理能力にかかっている。危機管理の失敗例としのイースター島の文明崩壊と、成功例としての江戸時代の日本の文明繁栄の比較は非常に興味深い。

・失敗例「イースター島」
イースター島はかって森林に覆われた緑の島であったが、文明の繁栄に伴い木材を大量に消費した。森林を伐採し、住居、漁ための船、またモアイ像建設のためのそりに木材を使用した。無計画な伐採は森林を完全に破壊し、最後の一本の木が切り倒された後間もなく、森林破壊 (deforestation) を契機とした食糧難は頂点に達し、餓えた人々による無惨な内戦状態を経てイースター島文明は消滅したと考えられる。

・成功例「江戸時代の日本」
イースター島同様、江戸時代の日本は住宅とくに各地での城の建造ラッシュにより木材需要は急激に増加し、徳川幕府は森林破壊の危機に直面していた。しかし、イースター島文明と違い、徳川幕府は迅速にトップダウンで対応し大幅な森林伐採の規制による需要の抑制と、当時世界で初めての植林による供給の増加をはかり、文明崩壊の危機を未然に回避することに成功した。

Diamond博士はこの徳川幕府のトップダウンによる危機管理を非常に高く評価している。また、 博士は日本の戦後めざましい経済的発展にも触れ、Core valueはそのままにしつつ、海外の良い面をどん欲に吸収する日本人の力を、優れた危機管理能力の非常によい例としてあげている。この機会に、私は歴史的に見た日本の危機管理能力の高さを再認識し、日本人として非常に誇らしい気持ちになった。しかし、講演の最後で、会場からのグローバリゼーションの文明崩壊に対する影響に関する質問に答え、Diamond博士は”熱帯雨林は現在、過剰伐採による森林破壊の危機にあるが、伐採された木材の最大の輸出先が日本である”ともコメントしている。


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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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