ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
4月12日の菅総理の記者会見を質疑応答を含めて約50分全部見ました。そして驚きました。どうして日本のリーダーであるはずの菅首相の言葉はこれほどまでに心に響かないのでしょう。その理由の一つが、本音で語っていないからではないでしょうか。嘘も方便であり、政治家は必ずしも公の場で本音を言う必要はありませんが、人の心をつかむためには少なくとも本音をかたっていると聴衆に思わさなければなりません。聴衆に本音を語っていると思わせる最も簡単な方法は、本当に本音で話すことです。

菅総理に対する国民の不信感がつのる要因のひとつに、福島原発に対する政府の対応、とくに情報公開の極端な不備があります。今回の災害のように今まで前例のない危機の前では、後から見ればその判断が間違っていたとか、こうするべきであったとか批判することはできますが、その時点では何が正しいのかわからないものです。もちろん政治家は結果責任をとわれますが、たとえ結果を出せなくても説明責任を果たせば、ある程度の理解は得られるはずです。たとえば「今まで福島原発の情報を十分に公開しなかったのは、首都圏でパニックが発生しそれによる2次被害を恐れたためである。結果的には国民と国際社会の不信感をつのらせる結果にはなってしまって申し訳ない。」と間違いを認めれば、もう少し国民の支持をえられるかもしれません。しかし、どうして間違いを認められないのでしょうか。それは菅総理の個人の性格や能力というよりも、政府として認める事ができない、認めるべきでないという方針なのかもしれません。

菅総理が日本をこの危機から救うことができるとすれば、官僚を上手く使うことが絶対条件になるでしょう。政治家が官僚を上手く使うための絶対条件とは、成蹊大学法学部教授の高安健将氏によれば、国民からの圧倒的な支持を受けていることです。国民からの大きな支持があるときのみ官僚は政治家の言うことをきくのです。支持率が下がり、政治家生命が短いとわかれば、官僚には政治家の指示に従うインセンティブはなくなります。

日本の危機を救うために官僚組織を動かすには、国民の支持というバックアップが必要です。そのために菅総理は原発・被災地視察というパフォーマンスにでたのでしょう。そして、いま原発・災害対策の政府の初動の間違いを認めることは支持率の低下につながり、ますます官僚組織を動かす事が困難になると考えているのではないでしょうか。

米国では過ちを認めれば、責任を取らなければなりません。したがって交通事故を起こしても「アイム・ソーリー」と言ってはならないと教えられます。米国では、重要な場面で謝っても何の特もないのです。しかし、日本では過ちを素直に認めて改心すれば、責任を取ることを強要せずに、もう一度チャンスを与えることを良しとする”空気”があるのではないでしょうか。

国民の側から見れば、今すぐに官僚組織に効率的に正しい仕事をさせ、この危機を乗り切るためにはリーダーを支持し、官僚を動かす力を与えるしかないはずです。支持率が下がれば下がるほど官僚組織は動かなくなり、日本はますます危機状態に陥るのです。国民の側にもリーダーを支持するインセンティブがあるはず。菅総理は守りに入るよりも、日本の”空気”に賭けて、開き直って今までの政府の対応の間違いを認め、もう一度チャンスを求めた方が支持率も上がり、この緊急時には双方にとってメリットがあるのではないでしょうか。




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4月2日の小出裕章氏(京都大学原子炉実験所助教)が、神保氏の電話インタビューで福島原発の展望についてコメントしています。前回のエントリーで書いたように、小出氏は1週間前のインタビューで2つの最悪のシナリオを提示していましたが、現在は「第2の最悪のシナリオよりは少しはましな状態」、すなはち「大きな爆発的事象はさけられるが、原発の安定化には、経済的にも人的にも高コストの冷却作業を、長期間にわたり必要とし、その間放射性物質が環境に垂れ流しになる」状態に近づきつつあると認識しています。福島原発は決して落ち着きつつあるのではなく、けんめいの冷却作業により何とか下り坂を転げ落ちるのをこらえている状態であるのです。この認識はIAEAが、ずっと「Overall at the Fukushima Daiichi plant, the situation remains very serious.」と評価していること一致します(IAEAが公表している福島原発1-6号炉の4月2日付けの評価スライドを下にしめします。)

また、炉心は2000度以上になり溶け出し、圧力容器、格納容器とも破損し、汚染した冷却は、だだ漏れ状態であると考えられます。4月2日のニューヨークタイムズも、米国政府や民間の「原子力鑑識(atomic forensics)」の粋を集めたシュミレーションの結果より、炉心は2,250度に達し、融解が始まっていると考えられると報じています。

大きな問題は、圧力容器や格納容器が破損している以上、閉鎖系で冷却水を循環させることは不可能であり、電源が復旧しても正常な冷却機能を期待することはできないということです。だだ漏れを承知で水を注入し、冷やし続けることしか方法はないのでしょう。この方法により大規模な水素爆発は阻止でき、大気中への大量の放射性物質の放散は避けられるかも知れませんが、その代償として、海水や地下水への汚染は継続されることになってしまいます。

小出氏が指摘するさらなる今後の問題は、この「最悪のシナリオよりは少しはましな状態」が、現場で働く十分な知識と技量をもった技術者の献身的な働きによってなんとか維持されており、将来的に被曝等の問題により、そのような上級の技術者を継続的に現場に派遣することが難しくなれば、この状態さえ維持できなくなる可能性があるということです。




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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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