ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
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シロクマの屑籠(汎適所属) の『使えない個性は、要らない個性。』を読んで、かって私の「個性」に対する考えに”パラダイムシフト”を起こした橋本治の言葉を思い出しました:

「個性とは傷である」
個性を伸ばす教育と言う人の多くは、個性というものを誤解している。個性とはそもそも哀しいもので、そんなにいいものではないのである。........

一般性をマスターしたその上に開花する個性などという、都合のいいものはない。個性とは一般性の先で破綻するという形でしか訪れないーそういうものだからしかたない。個性を獲得するは「破綻」と「破綻からの修復作業」なのである
           ー橋本治「いま私たちが考えるべきこと」ー



Osamu-02-27-09橋本治の言葉が意味するものは、あまりにも多くの場面、とくに学校教育において、単なる「差異」を「個性」と取り違えているということに対する嘆きと怒りです。個性とは一般的な課題を成し遂げたことの延長線上にある「少し違った素晴らしい創造的な何か」とは本質的に異なる次元にあるものなのです。

「個性のもと」とは、一般性からは逸脱しドロップアウトしたところにあり、「役にたつ」とか「創造的」とは全く正反対の性質を含蓄する「破綻」なのです。さらに「破綻からの修復」という作業だって、その作業の最中にはそれが本当に「修復」なのか、逆にさらなる「破壊」なのかさえ本人には確信が持てません。そのうちほんの一部だけがたまたま他人や社会のニーズに合致しすることがあるのですが、そうなってやっとその作業が「破綻からの修復=個性」であったと事後承認されるのです。ですから言葉の定義上「使えない個性」というのはないのです。

また、いったん破綻から修復されればそのままずっと安定か?というと、決してそうではないのです。またそれはすぐに破綻してしましい、次の「修復か破壊か」事前にはわからない作業を開始しなければならないのです。

この終わりない、途方もなく苦しい、繰り返される作業のことを「オリジナリティー」と呼ぶことにしています。「オリジナリティー」の追求はは常に苦しいものです。でも、もし今あなたが苦しい思いをしているなら、それは必ずしも悪いことではないかもしれません。それは「オリジナリティー」に向かっている可能性があるのですから。







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発声練習「価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない」より:

卒業していく君へ。
......何度も何度も「研究には正解とか不正解とかない。誰も答えを知らないから研究になっているんだ。だから、自分の主張をとりあえず述べて、相手の反論が正しいと思えてから自分は間違っていたと考えれば良いんだよ。」と伝えたのだけど、......



発声練習next49さんの、表現するためには、ある程度しっかりした自分の判断基準=精神的な背骨を持つことが大切であるという考えにはもちろん同意します。そして、「研究には正解とか不正解とかない....」ということもおそらく真であるでしょうが、正解でも不正解でもない状態をそのまま許容するというのは、ある種のせっかちなひとにはなかなか難しいものです。さらに「正解でも不正解でもない状態を」受入れつつ、自分の主張を述べるというのも、かなりの高等技術です。

私はとりあえず(本当はよく考えて)暫定的な自分の正解を作ってしまうのが好きです。「正解でも不正解でもない状態を受入れつつ、自分の主張を述べる」のではなく、「自分の暫定的な答えを述べる」。検証や議論の末に、その「暫定的な答え」を変更/訂正するという作業を常に繰り返し、「暫定的な答え」は新しいバージョンへとアップされていく。このようなアクション指向の方が合っているひともけっこういるのではないでしょうか。研究には絶対的な正解はないかもしれないが、常に暫定的な答えがあるとしたほうが、楽に生きられるのではと思います。

この「暫定的な答え」は仮説(Hypothesis)とも呼ばれます。そして仮説に基づく研究の進め方「Hypothesisーdriven approach」が米国NIHのグラントアプリケーションの評価システムでは、最も高く評価される確率が高いのです。



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febeatplay作家エリザベス ギルバート(Elizabeth Gilbert)は、マンハッタンに住む30代女性が離婚とミッドエイジクライシスを契機に、自分探し(Self Discovery)のために世界中を旅する自叙伝的小説「Eat, Pray, Love」の500万部を超えるセールスで、一躍世界の注目を浴びました。本来ならベストセラー作家としての成功を手中にした幸福にひたるはずでしたが、実際には「次の作品を書くことができるのか?」、「クリエイティビティーが枯渇してしまったのではないか?」という恐怖感に苛まれたという体験をTED talkで語っています。

程度の違いはあると思いますが、「自分はもうクリエイティビティー/プロダクティビティーのピークを過ぎてしまったのではないか」とか「もうこれ以上アイデアは出てこなくなってしまうのではないだろうか」という漠然とした恐怖や不安は多くの人が経験する感覚ではないでしょうか。そして、この恐怖/不安とどうつきあったらよいのでしょうか。

たとえば「アイデアはどこにあるか:Tim Hurson著 Think Better」でふれたように、ひたすら自分を信じて、精進し、自分の内面と向き合うというのも一つのアプローチでしょう。

”クリエイティブな素晴らしいアイデアは後半1/3に出てくる”クリエイティブな素晴らしいアイデアは(もしあるとすれば)頭の奥底に眠っている。しかし、普段はほかの簡単に思いつくような「陳腐なアイデア」で頭がいっぱいで、「素晴らしいアイデア」の出てくる余地がない。したがって、すべきことは「素晴らしいアイデア」を積極的に考え出すことではなく、「素晴らしいアイデア」が自然に出てこられるように多くの「陳腐なアイデア」を頭から追い出すことである。ブレインストーミングで出てくる最初の2/3のアイデアを紙(頭の外)に書くのは、後半1/3のアイデアを導き出すスペースを頭の中に作り出すための仕掛けである。



エリザベス ギルバートの場合は、長い間の苦悩の末、”クリエイティビティーは自分の中ではなく、外側にある”という、彼女曰く”前ルネサンス的”な考え方の境地に至りました。クリエイティビティーと言うのはある日突然”神の声”を聞くように天から降ってくるように自分にもたらされるとエリザベス ギルバートは表現します。自分は最大限の努力はするが、その努力が最終的にクリエイティビティーとして実を結ぶかどうかは、自分ではなく自分の外側にある”天”次第である。このような「人事を尽くして、天命を待つ」という姿勢をつらぬくことにより、彼女はクリエイティビティーが枯渇するという恐怖と折り合いをつけました。

神秘主義に陥らないように注意しなければなりませんが、ギルバートのアプローチは”アイデアが煮詰まってしまったら内ではなく外に目を向けるべし”と解釈することができると思います。自分の外に目を向けるという点では、佐藤可士和氏の「答えは対象のなかにすでにある」という方法論で、ひたすら対象に向き合うというアプローチとも共通する部分が多いにあると思います。

エリザベス ギルバートの話す英語はわかりやすいので、英語の勉強も兼ねて、彼女のTEDでのトークを楽しんでください(人事を尽くしても、天命が聞こえなかったらどうしたらいいのかという問いに対する彼女なりの答えもトークの最後に容易されています)。


今週のNature誌のエディトリアル「A crisis of confidence」では、現在進行中の経済危機とNIHの研究費が伸び悩む中でグラントに苦しむ研究者の生の姿が取り上げられています。

10年以上研究室を運営してきた2人のエスタブリッシュした研究者Jill Rafael-Fortney教授とDarcy Kelley教授が、再三の再投稿にも関わらず、R01グラントを更新できずに研究室縮小を余儀なくされ、閉鎖寸前にまで追い込まれていく2人のそれぞれのストーリーがドキュメンタリーとして描かれています。米国で研究室を運営する科学者ほぼすべてが同様のリスクに曝されているわけで、ストーリーを読んでいる最中に胸が苦しくなりましので、和訳は断念....

Research funding: Closing arguments; Nature 457, 650-655 (2009)

The battle to keep a lab funded can be long and painful. Meredith Wadman meets two researchers who may be close to hanging up their coats.


Nature-closing-Feb09


グラントを失ったときにまずすべきことは、デパートメントのチェアー(学部長)に相談して、緊急避難的なブリッジファンドの交渉をすることと、NIHグラントプロポーサルの戦略の練り直しのアドバイスを受け、NIH以外のファンディングソースへの推薦などを依頼することでしょう。上記の二人もそれぞれ学部長に相談しつつ、ギリギリのところで再起に向けて懸命に可能性を模索しているようです.....

オバマ新政権のStimulus Packageは確かに明るい材料ですが、長期的観点からいかに配分するか鍵であるとは、上記エディトリアルのコメントです:

The economic stimulus package currently working its way through Congress is likely to inject billions of dollars into the budgets of the scientific agencies, which will no doubt be welcome to researchers. But without careful planning and sustained follow-up funding, that sudden infusion of money could end up worsening the career crisis rather then easing it.



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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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