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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
アスリートAimee Mullinsは靴のCMには最も遠いと普通は考えるでしょう。しかし敢えて彼女を起用したKenneth ColeのCMは、おそらく最もイノベーティブな靴のコマーシャルの一つではないでしょうか。






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Pi-1その年に出版された最も優れた長編小説に与えられるイギリスの文学賞であるブッカー賞を2002年に受賞したヤン・マーテルの「パイの物語(Life of Pi)」。これほど予想を裏切られた本はありません。

童話調の美しい表紙と内表紙の絵地図から、主人公の少年”パイ”とベンガル虎”リチャード・パーカー”を乗せた貨物船がインドからカナダへの航行中に太平洋に沈没し、少年と虎は227日間漂流しメキシコにたどり着くというあらすじはおおよそ予想できます。

読み始めるとパイが最終的には救助されることもわかり、これは漂流という困難を乗り越える少年パイの成長プラス動物との心の交流を描いた感動の”癒し系小説”と勝手に思い込み、多いに油断して読んでいました。読み始めるにつれ、生存のためには捕まえたウミガメの甲羅を引きはがして生き血を吸わなければならない自然の過酷さや、少年と虎との緊張関係などこの小説が単なる童話ではないことが徐々にわかりますが、その展開にもほぼ満足。土曜日の午後に大部分を読み、最後にはハッピーエンドで心が洗われることを期待し、最後の50ページは日曜日に残して就寝することにしました。

そして日曜日の朝、最後の50ページを読み終えたときのショックは忘れられません。油断して読んできただけに、癒し系のエンディングを期待してきたでけに、その落差は大きかった。ネタばれになるといけないのでこれ以上は書けませんが、このショックはブラッドピットの「セブン」のエンディングに匹敵します。

「パイの物語」は一筋縄にはいかない、実は非常に難解な物語です。エンディングを含め読者が何通りにも解釈できる部分がたくさんあり、ウェブ上にもこの小説の解釈や感想を議論するフォラームやブログ、またYouTubeに読書ガイド(下記)もあり、関心の高さをうかがうことができます。「パイの物語」はおそらく一度読めば決して忘れることのできない小説です。





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科学者は一般のひと向けて科学を”平易な言葉で”、”簡単に”、”短く”しかし”本質をとらえた”説明を要求されることがあります。ハーバードの心理学教授のスティーブン ピンカーはColbert Reportというバラエティートークショーで「あなたの専門は脳の機能らしいけど、難しそうなトピックだよね。ぼくにもわかるように、脳がどのうようにはたらくかを5語以下で説明してくれないか」というショーホストのコルバートの質問に次のように答えました。


Brain cells fire in patterns.


これはなかな素晴らしい出来であると思います。しかし、さすがにこれだけでは全員にはわからないので「そのパターンがひとの行動とかを決めているんだよね」とコルバートがナイスなフォローをすると

A pattern corresponds to a thought.


と続けます。

10語あれば完全に概念が伝えられますが、最初の5語は本質をとらえつつ「パターンって何だろう」という重要な好奇心をトリガーするうまい作りになっていると思います。




関連エントリー:スティーブン・ピンカーが語る「バイオレンスという神話」



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私の所属するハーバードの研究所では、急遽お昼のセミナーの予定を変更して、オバマ大統領の就任式のストリーミング放送を講堂でみんなで観ることになりました。4年前も、8年前もこんなことはありませんでした。どれだけこの就任式が特別の意味を持ち、どれだけ科学者のコミュニティーからの期待が大きいかをうかがうことができます。

参考:ニューヨークタイムズ「Obama's People」

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サイエンス サイトーク「眼がよく見えると、若がえる」のインタビューで、慶應義塾大学眼科教授の坪田一男氏は「どうして眼科を選んだのですか」という有村美香アナウンサーの質問に、

自分を育ててくれると感じられた上司が、たまたま眼科医であったので、眼科医になった。
何科でもよかった、することは何でもよかった。


という意味の解答をしているのを聴いて、パフォーマンスの高い人のキャリアの築き方の極意をみる思いがして、なるほどなと思いました。

自分が何をしたいのかとか、自分にあった仕事は何かということは、実際に仕事をする前にはわからないのです。にも関わらず働き始めるまえに「自分は何をしたいのだろう」と過剰な自分探しモードに入り、人からは「あなたは本当は何がしたいのか」と常に問いかけられてしまう。ジョブインタビューを乗り切るためにはこの”言葉遊び”を切り抜けないとならないのですが....

本当のところは「何でも自分のためになることはやりたい。でも今は仕事のことがわからないから具体的に何がやりたいかはわからない。ただ、自分を育ててくれる良いメンター(師匠)となら、とことんがんばるだけの覚悟はできている」というぐらいがいいのではないでしょうが。

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わたしのGoogle Readerは主として科学雑誌のRSSフィードをいれていますが、年末に入れた唯一の音楽のRSSフィードがピアニストJon SchmidtPowerful Exhilarating Piano Musicです。最初は深く考えずに仕事の合間のバックグラウンドとして使おうと思っていたのですが、よく聴いてみるとこれがかなりすごい。YouTubeにライブのビデオクリップがあったので、聴いてみてください。



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大学の業績と成果を評価して、それに応じて予算を配分しようという試みはいくつかの国で実施されています。英国は国内159の大学の52,400人の研究者の評価結果を先月発表しましたが、その評価法についてNature誌は新年第一号のエディトリアルでコメントしています。

Editorial, Nature 457, 7-8 (1 January 2009)
Experts still needed
There are good reasons to be suspicious of metric-based research assessment.


英国が使用した/する評価法には次の二つがあります:

Research Assessment Exercise (RAE):英国が現在まで使用してきた評価法で、各分野のエキスパートが研究者の業績を発表論文に重点を置いて評価するものです。分野をよく知る研究者による深い評価(in depth evaluation)が期待できる反面、”不透明”であるとか”客観性に欠けるかもしれない”という懸念があります。

Research Excellence Framework (REF):RAEに関する懸念を受け、英国では来年度よりREFと呼ばれる業績を数値化(主として”その論文がどれだけ引用されたか”)する”透明性の高い”評価法(マトリックス法)に転換する予定です。

透明性は確かに重要なファクターですが、最も重要なのは研究業績をより適切に/正当に評価できるかであるはずです。よって、ここでの問題は”透明性の高い”REFの方がはたして、研究業績をより適切に/正当に評価するのであろうかということです。

この点についてNature誌のエディトリアルはマトリックス法に疑問をなげかけます:

....publication citations have repeatedly been shown to be a poor measure of research quality.


例えば、Natureに掲載された論文では、新しい技術の開発の関する論文のほうが、科学的な”真理”の探求に重点を置いた論文よりはるかに多く引用される傾向があります。

An example from this journal illustrates the point. Our third most highly cited paper in 2007, with 272 citations at the time of inspection, was of a pilot study in screening for functional elements of the human genome. The importance lay primarily in the technique. In contrast, a paper from the same year revealing key biological insights into the workings of a proton pump, which moves protons across cell membranes, had received 10 citations.



E. J. Rinia(Res. Policy 27, 95–107; 1998)によれば、論文の引用数に重点をおいた数値化した評価法(マトリックス法)とエキスパートによるピアレビューを比較検討したところ5000の論文のうち25%で2つの評価法の乖離が見られ、その半分ではエキスパートが価値ありと評価した論文が、マトリックス法では価値なしという評価結果になっているようです。

The study found disagreements in judgement between the two methods of evaluation in 25% of the 5,000 papers examined. In roughly half of these cases, the experts found a paper to be of interest when the metrics did not, and in the other half, the opposite was the case. The reasons for the differences are not fully understood.



また、このエディトリアルでは言及されていませんが、インパクトファクターはジャーナルの商業的パフォーマンスのグローバルな指標という側面が強く、またその算出方法にも問題があります(詳しくは過去のエントリー「インパクトファクターについて知っておくべき10の真実」「インパクトファクター」を見てください)。

結論から言えば、マトリックス法は確かに透明性が高く、”客観的な”評価法と感じる人が多いかもしれませんが、科学者の間では正当な業績評価法としては現在受け入れられていません。

It is also important to note that the use of metrics as an evaluation method does not have widespread support within the scientific community.



ベストな評価法とは言い難いエキスパートによるピアレビューですが、業績/成果による予算配分では、(少なくとも当面は)この評価法に頼らざるを得ないということのようです。

Expert review is far from a problem-free method of assessment, but policy-makers have no option but to recognize its indispensable and central role.





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世界で最もクリエイティブなサイエンティストとサイエンスサヴィーな思想家が集うクラブEdge Foundation, Inc。 2009年のEdge FoundationのAnnual Questionは:

未来を変えるイノベーションとは
WHAT WILL CHANGE EVERYTHING?
"What game-changing scientific ideas and developments do you expect to live to see?"


2009年は漠然と誰もがイノベーションの必要性を感じる年になりそうです。サイエンスがイノベーションをリードしていくことに間違いはありませんが、サイエンスがイノベーションとして社会にインパクトを与えるためには、マネジメントがクリティカルな役割を果たします(池田信夫;ハイエク 知識社会の自由主義)。したがって、サイエンティストとビジネスパーソンがともに”未来を変えるイノベーションとは”と問い続ける必要があるはずです。

未来予測はたいていはずれるものですが、(はずれるからといって意味がないとか、重要でないということではない)100人あまりの各分野のエキスパートの2009年Edge FoundationのAnnual Questionに対するエッセイをこちらから読むことができます。


関連エントリー:The Edge Annual Question ― 2008(あなたの考えが変わったとしたら、それはなぜですか?)(1/2/2008)



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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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