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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
「The days are long, but the years are short」がテーマの約1分のニューヨークを舞台にしたスライドショウです。一年が過ぎるのが速いなあと感じる人におすすめです。
http://www.theyearsareshort.com/

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過去半世紀にわたりアメリカのGDP増加の半分はScience and engineeringによりドライブされてきた。次の大統領が直面する困難な政治/経済の問題を解決するためには、候補者のサイエンスリテラシーは重要な争点であり、”科学政策に特化した大統領候補間ディベート”が必要だ.....
Science and engineering have driven half the nation’s growth in GDP over the last half-century, and lie at the center of many of the major policy and economic challenges the next president will face. We feel that a presidential debate on science would be helpful to America’s national political dialogue.
Alan Leshner, CEO, American Association for the Advancement of Science (AAAS)


”科学政策に特化した大統領候補間ディベート”の開催を要求すべくグラスルーツ運動ScienceDebate2008の途中経過:
sciencedebate2008

AAASミーティングではScienceDebate2008のためのフォーラムがもたれ、多くの科学者を含むサポーターから候補者に向けたメッセージがおくられました。その中から、クリントン大統領のWhite House Chief of Staffをつとめ、現在ワシントンのシンクタンクthe Center for American ProgressのトップであるJohn Podesta氏のメッセージを紹介しておきます。



関連エントリー:
大統領にサイエンスリテラシーを:ScienceDebate2008



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サイエンス・コミュニケーターを養成するシステムの重要性が日本でも提唱されつつあると思います。サイエンス・コミュニケーターとは:

(専門的な知識やデータの意味・意義をわかりやすく説明し)”社会のさまざまな場面において、ひとと科学技術(注1)をつなげる”役割をはたす人/職業


というのが一般的でしょう。広い意味では、サイエンス・コミュニケーターの仕事の社会に対するインパクトは大きく(参照:サイエンス・コミュニケーションとは戦いである)、また、研究者のオルタナティブ・キャリアパスとしても重要です。

ハーバードのわれわれの研究所でもサイエンス・コミュニケーターのリクルートを最近行い、候補者をインタビューしました。そこで雇用する側からみて、サイエンス・コミュニケーターに要求する条件/資質を考えてみました。

高いサイエンスコミュニケーション能力を持ち(注2)、チームプレーヤーであり、高い職業倫理があることは前提条件として、次の2つが重要でしょう。

1)サイエンスライター/ジャーナリストとしての能力:口頭でわかりやすく伝える能力も重要ですが、今回のリクルートでプライマリーに要求されたのは、サイエンティストの仕事をわかりやすく/興味をそそる記事にして、さまざまなメディアに配信できる能力です。よって記者としてのスキルと、ネットリテラシー、さらに、新聞社やジャーナルとのコネクションや過去にそこで働いた経験が重視されます。

2)ファンドレイジングをアシストする能力:サイエンスライターを使って情報を発信し、パブリック・アウエアネスを高める理由のひとつが寄付を集める(ファンドレイジング)ことです。政府からの研究費が減少している現状ではファンドレイジングがますます重要になっています。サイエンス・コミュニケーター自身が有能なファンドレイザーである必要はありませんが、ファンドレイジングに参加した経験や、プロのファンドレイザーをアシストする能力は大きなプラスです。

サイエンス・コミュニケーターは大きな可能性を秘めた新しいキャリアパスであると思いますが、人数が増えていけば他の職業と同様にコモディティー化するでしょう。よってサイエンスのバックグラウンドがあるだけでなく、上の2つのようなスキル/経験/ネットワークがコモディティー化を防ぐ鍵になるのではないでしょうか。



注1:Science&Technologyはしばしば科学技術と一語に和訳されることがありますが、決して1つの言葉でありません。あくまでも、Science(科学)とTechnology(技術)の2つの言葉を意味します。「科学と技術/サイエンティストとエンジニア


注2:参考ー「人間力」を磨けなどと言っている場合ではない:本田 由紀氏






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Science&Technologyはしばしば科学技術と一語に和訳されることがありますが、決して1つの言葉でありません。あくまでも、Science(科学)とTechnology(技術)の2つの言葉を意味します。便宜的にScientistとEngineerが、ScienceとTechnologyに対応して使われることが多いと思います。

Science&Technologyの「&」はときとして融合を意味しますが、またScientistとEngineerの間の心理的/物理的な壁を意味するかもしれません。NatureNewのブログ「Engineering for the better」でもふれられているように、Science&TechnologyをPure & Applied Scienceだと一般には認識されていますし、自虐的にEngineerを”long dismissed as the lumpen, dirty-handed serfs labouring at the foot of science’s lofty citadel”と表現し、一部では"Pure Scientist"よりも一段低く見られていた経緯を示してします。

実際にTechnology側もScienceやMedicineと比較してのポジショニング(Engineerのレベルではアイデンティティーの持ち方)に腐心しているようです。これはScience側では、存在意義はPure Scienceと開き直ることが可能であるし、Medicineの存在意義を敢えて問うこともあまりしないでしょうが、Technologyの場合には存在意義を常に社会との接点に求めなければならない流動的な部分があるからではないでしょうか。

上記ブログで引用されていた1984のNicholas Maxwellの「From Knowledge to Wisdom」でScience&Technologyの関係を垣間見てみると:

....社会の問題を解決するためにはNatural Science (pure science)では不十分で、知恵(intellectual priority)を問題可決に生かす新しい学問領域が必要である....
To blame science for the ills of the world is to miss the point, says Maxwell. “What we urgently need to do ― given the unprecedented powers bequeathed to us by science ― is to learn how to tackle our immense, intractable problems of living in rather more intelligent, humane, cooperatively rational ways than we do at present … We need a new kind of academic inquiry that gives intellectual priority to our problems of living ― to clarifying what our problems are, and to proposing and critically assessing the possible solutions.”



とし、

to this end, the natural sciences should include three domains of discussion: not just evidence and theory, but also aims: “this last category covering discussion of metaphysics, values and politics.”



natural sciencesに”evidence”と”theory”以外に”aims”が必要であるとしています。ここでのコンテクストではTechnologyとは”aims”を担当し、重要なことは、aimsはpoliticsと無関係でない、むしろ常に密接にpoliticsを反映するものであるとしているところです。

2008年にもどると、National Academy of EngineeringがGrand Challengesとして、Engineerが今貢献すべき14の大きな問題を掲げてきます。これはpoliticsを意識して、Engineerがいかに社会とって重要であるかのキャンペーンであります。

Grand Challenges for Engineers by National Academy of Engineering

・Make solar energy economical
・Provide energy from fusion
・Develop carbon sequestration methods
・Manage the nitrogen cycle
・Provide access to clean water
・Restore and improve urban infrastructure
・Advance health informatics
・Engineer better medicines
・Reverse-engineer the brain
・Prevent nuclear terror
・Secure cyberspace
・Enhance virtual reality
・Advance personalized learning
・Engineer the tools of scientific discovery

PS:Grand Challengesは有用なサイエンスリソースでもあり、これから何か新しいことを始めたいと考えているScientist/Engineerのトピック選択にも参考になるでしょう。またグラントライティングで(Science&)Technologyと社会との関わりについてのパラグラフが必要なときにも参考になるのではとブックマークしています。





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インパクトファクターについて知っておくべき10の真実」でふれたRockefeller University PressとThomson Scientific間のコンフリクトで、インパクトファクター値の信頼性に疑問を投げかけている件。

7)Thomson Scientificはインパクトファクターの計算に使用された論文引用のデータをジャーナル出版社に有償で提供している。Journal of Cell Biology、Journal of Experimental Medicine, Journal of General Physiologyを出版しているRockefeller University Pressがどの分野/トピックべつの論文引用を調べるためにThomson Scientificよりデータを購入して自らでインパクトファクターを計算してみたところ、Thomson Scientificの公表する値とは異なることが判明した。



この件については、現在も問題は解決されていないが、

9)Thomson Scientificのデータベースは”Research Group”と”Journal Citation Reports (JCR) ”の2種類あり、後者がインパクトファクター計算に使用されているにもかかわらず、Rockefeller University Pressに販売されたものは前者であったことが後に判明します。



については、どうやらデータベースは一つであるが、2種類の異なったフィルターを用いて処理をしたようです。

上記7を解決するためにRockefeller University PressがThomson Scientificに計算方法を公表するように依頼したが、Thomson Scientificは”2度同じ実験はしない”とその依頼を断ったようです。これが、

Irreproducible results: a response to Thomson Scientific

として、Rockefeller University PressのJournal of Experimental Medicineのエディトリアルでとりあげています。

Rockefeller University PressはThomson Scientificの態度にもはやこれ以上の科学的な議論は不可能/無意味と判断し、この件に関する議論をクローズするとともに、各ジャーナル出版社に:

Citation(引用)の情報をすべてパブリックにオープンにしてThomson Scientificの介入なしに、だれでも一次情報にアクセスでき、各自が(必要なら)インパクトファクターやその他のアナリシスをできるようにすべきである
..we close this discussion with a plea to our fellow publishers to make their citation data available in a publicly accessible database, and thus free this important information from Thomson Scientific's (and other companies') proprietary stranglehold.



と提言しています。

Thomson Scientificにもオープンソースの波が押し寄せることになり、データを囲い込むことで利益を上げ続けることは困難になるのでしょう。



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小飼 弾氏の「速水健朗著 自分探しが止まらない」への書評より:

「自分探しが止まらない」は、著者を含めた多くの若者が「ハマる」、「自分探し」という「病」の症例集。ただし処方箋は書いていない.....

それでは、なぜ著者も含め自分探しが止まらない人々はそれを止められないのか。
自分を決めるのが、怖いからだ。
そして社会も、自分を決めることを若者たちに強いなくなったからだ。


「社会が自分を決めることを若者たちに強いなくなった」のは、(社会学者風に言えば)意識的にせよ無意識にせよ「昔のようにいったん自分を決めればそれで最後まで行けた」時代が終わりつつあることを大人たちが感じているのが、一つの理由ではないでしょうか。

職業人のキャリアはますます広い意味でのプロジェクト式になっています。短いときには数ヶ月、長くても数年の単位で成果を出し、その成果に基づいてさらなる次のプロジェクトに移っていきます。新しいプロジェクトの自分は、前のプロジェクトの自分ではありません。もちろんプロジェクトを通じて”自分”は常に成長過程にあるので、新しい”自分は”必ずしも全く別の”自分”である必要はありませんが、全く同じ”自分”ではおそらくプロジェクトを成功に導けないでしょう (ここでは”プロジェクト”を”ルーチン”に対峙するものとして意味付けています)。

今のプロジェクトが終わるまでには、次の自分の少なくともヒントぐらいは見つけだしていないと、次のプロジェクトをタイムラグなく立ち上げることはできません。したがってこれからは”自分探しの旅”はMUSTなどではないでしょうか(もちろん私の意味する”自分探し”は速水氏の”自分探し”とは量的に/程度が違うかもしれませんが、おそらく質的には同種のものであると思います)。

”自分探しの旅”の最中は、何者でのない自分を皆苦しく、おさまりの悪いものと感じるはずです。しかし、これはべつに悪い事ではありません。”自分探し”は今の自分を完全に否定しないかぎりは”成長”とか”Re-invent”とかおさまりの良い言葉に置き換えてもよいでしょう。”生みの苦しみ”と言うのも悪くないでしょう。

”もう自分を探さなくてよい”と思い込むほうが問題となる時代がやがてやってくるのでは....


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The Happiness ProjectよりTwyla Tharp”(dancer/choreographer)の言葉:

毎日の遭遇すべてがクリエイティビティーにつながる可能性を秘めている。しかし、正しいマインドセットなしにはそのクリエイティビティーの種に気づくことすらできない。
“Everything is raw material. Everything is relevant. Everything is usable. Everything feeds into my creativity. But without proper preparation, I cannot see it, retain it, and use it.”



行き詰まったときにはトピックを変える、プロジェクトを変える、仕事を変えるなど環境を変えることを考えがちですが、マインドセットを変えることで現在の環境でも、かっては見えなっかた数多くの”クリエイティビティーの種”を見ることができるようになりえると理解しました。

環境を変えて刺激を得る、また慎重に環境を選ぶことは間違いなく重要です。ただし環境を選ぶことは出来ても、環境を変えることは自分一人の力ではできません。そんなときに、別の次元のアイデアとしてマインドセットを変えるという視点は大切です。なぜならマインドセットは(簡単ではないにせよ)自分一人の力で変えることができるからです。

PS: サイエンティストとマインドセットの変化について最近興味をもっていますので、後日ふれるつもりです。


関連エントリー:変化に対する恐怖について
研究者にもビジネス・サイコロジーは必要:[Change] vs [Zoom]
http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-2.html







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CareerBuilder.comの宣伝です(Shifting Careerより)(少しグロテスクで、エイリアンを彷佛させますが...)。好きなことを仕事にしたい(Follow Your Heart)や天職に就きたいと思うのは米国でも日本でも同じです。






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全米トップ50のポスドクは”専門バカ”ではない」でふれた若手の独立をサポートするK99/R00グラント(プロ研究者への道でもとりあげられていました):

NIHの”The Pathway to Independence Program (K99/R00)"は2006 年度から開始されたポスドクの独立を促進するための新しいフェローシップ/グラントのハイブリッドプログラムである。K99フェーズではポスドク時のサラリーと少しの研究費を、そしてPIのポジションを得ればR00フェーズでは年間25万ドル(約~3000万円)が与えられる。これだけで研究室を運営するのは難しいが、雇用主の大学にとっては投資(スタートアップパッケージ)が少なくてすむのでインセンティブになるし、なによりK99/R00の審査は厳格でcompetitiveであるので、受賞すること自体非常に高い研究者としての評価になる。K99/R00の受賞は今後エリート研究者の王道となる可能性があるが、その第一期生約50名がアナウンスされた。約50名とは各州1人の計算になる。



新しいシステムなので詳細がわかりずらいのですが、NIH VidoCastにこのグラントに関する90分のセミナーのムービーがアップロードされました。

<http://videocast.nih.gov/Summary.asp?File=14293>

いくつかハイライトを:
(40分あたり)”重要なのはパブリケーションリストではなくトラックレコード”(量より質重視)
(45分あたり)”成功率は約20%でM.D.も Ph.D.ほぼ同じ”(5人に1人が選ばれる。現在のNIHの状態からすればかなりよい)
(54分あたり)”You MUST have preliminary data”
(58分あたり)”K99フェーズとR00フェーズのそれぞれの研究計画は全体としてみたときに整合性があるように書く”
などなど.....

何事も分厚いインストラクションを最初から読むのはつらいものです。ムービーやポドキャスとを上手く利用して、プロジェクトを始める前に強制的に知識を詰め込むフロントローディングは、プロジェクトを進めながら徐々に知識を得るよりも遥かに効率的です。




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テルミン (Theremin) は、1919年にソ連の発明家レフ・セルゲーエヴィッチ・テルミンが発明した世界初の電子楽器である.....テルミンの最大の特徴は、テルミン本体に手を接触させることなく空間中の手の位置によって音程と音量を調節することである.....(ウィキペディアより



テルミン奏者Pamelia KurstinのTEDでの演奏に感動しました。”自分の世界で一番になる”ことの素晴らしさを確認しました。

関連記事:羊土社「プロフェショナル根性論:自分のキャパシティーを見極める




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Nature.comのブログ Natutilus ”What's in a Jane?”で見つけた情報.

Jane: Suggesting Journals, Finding Experts.
          ーBioinformatics. 2008ー


Jane (Journal/Author Name Estimator) はフリーウェブ・アプリケーションで、論文のタイトルand/orアブストラクトを入れてサーチすれば関連性の高い順にジャーナル名をあげてくれます(=投稿先のサジェスチョン)。また、関連性の高い論文を発表している著者をサーチすることもできます。

自分の複数の論文で試してみましたが、実際に掲載されたジャーナルは上位には来ませんでした。ブログNatutilusのMaxine Clarkeも同様の結果(的中せず)を得たようです。やはり投稿先を決めるのは様々な”バイアス”がかかるので、キーワードによる関連性だけでは予測は難しいのでしょう。

現在のところ真剣に投稿先を決めるのにJane 使うことはお奨めしませんが、Just For Funで試してみてください。


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自己啓発(self-development)の本を良く読みます。”自分”や”答え”をさがして踊らされることも必要ですが(そのために読んでいるのですが)、週末には一歩引いて見つめ直すことも大事でしょう。そんなときに見る3分間の休息するためのアップテンポなムービーです。

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Thinkクリエイティブなアイデアにをいかにして思いつくかは、私のような平凡なサイエンティストには永遠のテーマです。クリエイティビティーとは天性のものなのか、努力やトレーニングでどの程度磨くことができるものなのかいまだに定かではありませんが、私のまわりの私が非常にクリエイティブだとみなしているハーバード教授らは恐ろしいぐらいハードワーカーで、絶え間なく努力しているようです。

しかし、クリエイティブなアイデアにたどり着くにはどんな努力をすれば良いのでしょうか?そんな疑問に対する答えのヒントをTim Hurson著「Think Better: An Innovator's Guide to Productive Thinking」にみつけました。この本の要旨は問題解決のようなクリエイティブ・シンキングは現在最も価値の高い(さらにコモディティー化しにくい)スキルであるとし、クリエイティブ・シンキングを身に付けるための方法論を示してます。

実を言うとTim Hurson方法論自体はいかにもコンサルタントぽく、わかりやすいのですがビジネスオリエンティッドでバイオ・メディカルな研究に直接役立つという印象は受けませんでした。(もちろんビジネス書であるので当然ですが...)

しかし、最も印象に残ったのはブレインストーミングの理論(方法ではなく)でした。簡単にいうと:

”クリエイティブな素晴らしいアイデアは後半1/3に出てくる”



クリエイティブな素晴らしいアイデアは(もしあるとすれば)頭の奥底に眠っている。しかし、普段はほかの簡単に思いつくような「陳腐なアイデア」で頭がいっぱいで、「素晴らしいアイデア」の出てくる余地がない。したがって、すべきことは「素晴らしいアイデア」を積極的に考え出すことではなく、「素晴らしいアイデア」が自然に出てこられるように多くの「陳腐なアイデア」を頭から追い出すことである。ブレインストーミングで出てくる最初の2/3のアイデアを紙(頭の外)に書くのは、後半1/3のアイデアを導き出すスペースを頭の中に作り出すための仕掛けである。


これはDavid Allenが「Getting Things Done(GTD)」で提唱する、クリエイティブであるためには頭のRAMを常に空にしておかなくてはならないという理論と相通じるものがあると思います。



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what s next-1What's Next: The Experts' Guide: Predictions from 50 of America's Most Compelling Peopleは各分野のエキスパート50人よる近未来のトレンド予測をまとめた本であり、著者Jane BuckinghamはStrengths-based approachで知られたMarcus Buckinghamの妻ということにも興味をひかれました。Barnes & Noble書店で医療(Medicine)のチャプターだけを立ち読みしました(実際にはジュンク堂のように椅子があるので、座って読んだのですが)。

医療の近未来トレンド予測を書いているのは元Surgeon General Dr. Richard Carmona。Surgeon GeneralとはUnited States Public Health Serviceのトップであり、医療行政の名目上最高責任者(実際はスポークスパーソン的要素が強いと思います)で、日本の厚生(労働)省のトップ/大臣に相当します。

Richard Carmona氏によれば、次の5年10年に医療に最大のインパクトを与えるものは医療技術革新や病気の分子メカニズムの解明などの医学上の新しい発見ではなく(これらはもちろん重要であるが)、ヘルス・リテラシーの獲得です。生活習慣病が国民の健康と国家財政に甚大な影響を与えている現状では、健康・運動・食事などに関する正しい情報を、適切に理解する能力を誰もが身に付ける教育の機会を政府が提供しなくてはなりません。しかし、ヘルス・リテラシーは知る/理解するだけでは十分ではなく、実践することも含みます。

Richard Carmona氏が指摘するように、何かを成し遂げようとするときに、最も困難なミッションが:

Change my/someone's Habits



です。ウェブ・リテラシーがインターネットを使いこなせる能力を含むように、ヘルス・リテラシーは医学的に正しい知識を収集・選択・理解し、すぐには悪影響がなくとも長期的に健康にネガティブなインパクトをもたらす生活習慣をやめる能力のことです。

下線の部分はStephen R. Coveyが提唱するHighly effectiveになるためには時間管理術(Time Management):

緊急性がなくとも重要なことに時間を割り当てるQuadrant II Time Management(下図)

とほぼ同じ意味であると思います。

「関連エントリー」
地球温暖化とQuadrant II Time Management
(図の要旨:ひとは日々の雑用に追われQuadrantI(左上)に時間を取られがちであるが、長期的に生産性を上げるためにはQuadrantII(右上)にかける時間を日々意識して確保しなくてはならない)

AAA








元ヤフーのセスの語る"curiosity":

Fundamental:物事をまず自分の価値観に合うかどうかで判断し、価値観に合うものだけを深く追求する

Curious :とにかくまず深く追求し、そのあとで価値観に合うかどうか考える


今の社会では小中学校から「フォーカス」や「選択と集中」が高く評価され、Curiousでいることがますます難しくなり、Curiousな人はどんどん少数派となっている。しかし、多数派(Focus/Fundamental)はつねにコモディティー化の危険にさらされているので、少数派(Curious)でいる事の方がむしろリスクが低いというのがセスの主張のひとつです。

創造性と関連して大人がCuriousであることはポジティブなイメージがありますが、現代の米国では子供がCuriousであることはセスも言うように簡単ではないのです。米国では600万人の子供がBipolar DisorderやAttention Deficit Hyperactivity Disorderで精神科からの投薬を受けている現状では、生理的なCuriousと病的なManicとの境界を学校がどう見分けるかがますます難しくなっていると考えられます....

ずっと少数派であっても、表面上はいったん多数派として振る舞っていても、大人になってもCuriousでいられるかがGreatnessとMediocrityとを分ける鍵だとこの5分間のムービーは教えてくれます。




追記(2/3)

関連エントリー「年齢と創造性:creativity のピークは30歳台か?


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ジャーナルインパクトファクターの研究者の業績を判断する上での妥当性についてはいろいろなところで議論されてきたと思いますが、インパクトファクター値の信頼性については意外に盲信している場合が多いのではないでしょうか。しかし、Journal of Cell Biologyのエディトリアルはインパクトファクター値の信頼性に疑問を投げかけています。以下にインパクトファクターについて知っておくべき10の真実を:
1)インパクトファクターは次のように計算されています(Wikipediaより):

インパクトファクターはWeb of Scienceの収録雑誌の3年分のデータを用いて計算される。たとえばある雑誌の2004年のインパクトファクターは2002年と2003年の論文数、2004年のその雑誌の被引用回数から次のように求める。

A = 対象の雑誌が2002に掲載した論文数
B = 対象の雑誌が2003年に掲載した論文数
C = 対象の雑誌が2002年・2003年に掲載した論文が、2004年に引用された延べ回数
C÷(A+B) = 2004年のインパクトファクター



2)分子(C)はすべての種類の論文を含みますが、分母(A+B)はarticles(原著論文)とreview articles(総説)のみを含めfront matter(例:Nature の"News and Views" など)は含まない

3)articles、review articles、front matterの区別はThomson Scientificのスタッフの手仕事で行われている。この点が問題になる可能性がある。

4)たとえば、ジャーナル側はThomson Scientificと交渉してインパクトファクターが高くなるように分母の部分に手を加える余地がある。例えばCurrent Biology のインパクトファクターは2002年から2003年にかけて7.0から11.91に跳ね上がったが、このときトータルの論文数は増加しているにもかかわらず分母は1032(2002年)から634(2003年)に減少している。

5)Retractされた論文の引用数もカウントされている。例えばWoo Suk Hwangの2004年と2005年にScienceに掲載されたstem cell論文もカウントされている。

6)インパクトファクターは平均値であるので著しく高頻度で引用される一部の論文による影響が大きい。例えばNatureでは2005年の総引用数の89%は上位25%の論文からきている(Editorial. 2005. Not-so-deep impact. Research assessment rests too heavily on the inflated status of the impact factor. Nature. 435:1003–1004)
  <参考>パレートの法則/80-20ルール(例:売上の80%は、全商品の20%が作る)

7)Thomson Scientificはインパクトファクターの計算に使用された論文引用のデータをジャーナル出版社に有償で提供している。Journal of Cell Biology、Journal of Experimental Medicine, Journal of General Physiologyを出版しているRockefeller University Pressがどの分野/トピックべつの論文引用を調べるためにThomson Scientificよりデータを購入して自らでインパクトファクターを計算してみたところ、Thomson Scientificの公表する値とは異なることが判明した。

8)Rockefeller University Pressが購入したデータには多くの間違いが含まれていた:
   #分母に本来除かれるべきfront matterが多数含まれていた
   #引用数はひどい場合には19%の違いがあった

9)Thomson Scientificのデータベースは”Research Group”と”Journal Citation Reports (JCR) ”の2種類あり、後者がインパクトファクター計算に使用されているにもかかわらず、Rockefeller University Pressに販売されたものは前者であったことが後に判明します。

10)Journal Citation Reports (JCR)データベースはThomson Scientificのスタッフにより間違いが修正されていることになっているが、現在のところ販売されていない。


研究者も研究者を評価する側もインパクトファクターが客観的にそして正確に計算された値であることを前提にしている場合が多いと思います。しかし、インパクトファクターという概念を研究者の客観的評価に使うことを議論する以前に、インパクトファクター値がはたして毎年正確そして公正に計算されているから疑ってかからなくてはならないでしょう。

”引用数はひどい場合には19%の違いがある”事実を考慮すると、少なくともインパクトファクター1~2点程度の差というのは”ぶれ”の範囲内でしょう。

追記(2/3)
関連エントリー「インパクトファクター


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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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