ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
地球レベルでの所得格差や医療レベルの格差などGlobal Povertyは、大都市の大学に勤務するものにとっては意識することのあまり多くないトピックでした。しかし、今週はふだん目を通している科学雑誌にGlobal Povertyに関連した記事や論文が多くハイライトされていることに気づきました。

これは、Council of Science Editors (科学雑誌編集者会議)のキャンペーン「Global Theme Issue on Poverty and Human Development」によるものです。このキャンペーンに参加するNature, PLoSなどを含めた235の科学・医学雑誌に掲載された(される)すべてのGlobal Povertyに関する記事(原著論文、レビュー、エディトリアル等)はオープンアクセスとなり、リンクににより「Global Theme Issue on Poverty and Human Development」のサイトに集積されます。これにより今までに例をみない世界最大規模のオープンアクセス可能なGlobal Povertyに関する科学オンラインリソースが形成され、パブリック・アウエアネスの促進と、今後の研究をサポートする重要な基礎固めができると期待されます。

例えば「Global Theme Issue on Poverty and Human Development」に参加している記事には:

免疫学の分野ではNature ImmumologyのHIV ワクチンに関する:

Science, medicine and research in the developing world: a perspective
―Frances Gotch & Jill Gilmour―

As part of the Global Theme Issue on Poverty and Human Development, Frances Gotch and Jill Gilmour describe the development of laboratory capacity to support HIV vaccine trials as a model for technology transfer in the developing world.


ナノ・テクノロジーの分野ではNature Nanotechnologyの水をきれいにする技術に関する:

Nanotechnology and the challenge of clean water
―Thembela Hillie & Mbhuti Hlophe―

Access to 'potable' water would transform the lives of many people in the developing world. Nanotechnology is already being used to remove contaminants from drinking water and increase the availability of fresh water, but there is still a long way to go.


また、PLoSでは

1日1ドル以下でGlobal Povertyに対抗する最も効果的な手段を50字で答えよ
(Which single intervention would do the most to improve the lives of those living on less than $1 a day?)


という質問に対しての、コロンビア大学の経済学者で”The End of Poverty”の著者Jeffrey Sachsやハーバードの医師でハイチでHIV患者の治療に当たったPaul Farmerなど30人の答えを「Thirty Ways to Improve the Health of the World's Poorest People」として掲載しています。

日頃は科学雑誌を”インパクト・ファクター”として見がちですが、オープン・アクセスとリンクにより地球規模の問題に科学者が貢献できるフレームワークとしての重要な機能も今後担っていくのでしょう。

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セミナーや学会会場で質問をするのは簡単ではありません。少しばかりの勇気と、そしてスキルが必要です。ニューヨークタイムズのブログShifting Careersからのリンクでたどり着いたThe Happiness Projectの 「Ten tips for asking questions from the audience」では、ビジネス・カンファレンス等で質問するための10のチップを紹介しています。このチップは研究者がうまく質問するためにも役に立ちそうです。

ところで「よい質問をする」と「うまく質問をする」とは同じではありません。(もちろん「良い質問を、うまくする」がベストですし、2つは多分にinter-connectedですが...)「よい質問をする」能力に比べて、「うまく質問をする」能力は”短期間に学習可能なスキル”的側面がより大きいように思います。しかし「うまく質問をする」スキルが向上すれば、より困難な課題である「よい質問をする」能力を磨きたいというモチベーションの向上というポジティブ・フィードバックがあるでしょう (inter-connected!!)。「よい質問をする」能力についてはまた別の機会に書くとして、ここではThe Happiness Projectよりカンファレンス等で「うまく質問する」ための10のポイントを研究者用に少しアレンジします:

1)マイクを使う:待ちきれずにシャウトする人もいますが、演者と会場の聴衆に正しく質問を理解してもらうためにも、可能ならばマイクが来るのを待ちましょう。

2)会場のざわめきがおさまるまで一時のポーズを:1と同じ理由

3)言い訳をしない:「素人の質問で申し訳ないのですが...」など言う必要なし

4)演者をファースト・ネームで呼ばない:Dr.をつけましょう。(もちろん例外はありますが、フォーマルなトーンでなんら問題ありません)

5)しゃべりすぎない

6)短く簡潔に:そうすればしゃべりすぎも防げるはず。

7)2つ以上質問をしない:「2つ質問があります。第一の質問はXXX、第二の質問はYYYY」と言う人がかなりいます。第二の質問を言い終わるころには、演者も聴衆も第一の質問が何だったか忘れてしまい「ところで第一の質問は何でしたか」と逆に聞き直している光景をよく見かけます。何事も基本は One at a time

8)もし適切ならば、単なる質問だけでなく少しだけ何か自分のことを言いましょう:これは高等テクニックでしょう。ビジネスではセルフ・プロモーションを意味するのでしょうが、サイエンスでは自分の質問をコンテキストに置くための短い解説でしょう。(なぜ、私の質問が演者と聴衆にとっても大切なのか)これは5番・6番と相容れない可能性があるので慎重に。

9)(シャウトではなく)声を張りましょう:質問が聞こえないとフラストレーションが溜まるのはどこでも同じ

10)質問することであなたが成長するということをお忘れなく。




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宮崎哲弥が語る仕事(朝日新聞より)

40歳になったとき、朝日新聞で同い年の重松清さん、長野智子さんと鼎談(ていだん)し、「いまだに『大人になったら何しようかなあ』と考えている自分に気づいて愕然(がくぜん)とする」みたいな話をしたんですが、45になったいまもあんまり変わりません。よく若い人から、「やりたい仕事」ができないとか、見つからないという悩みを聞きますが、「やりたい仕事」なんて本当にあるのかな、と疑ってしまう。


20台・30台のときには今はまだ修行中の身であるが、将来的にやりたい仕事やプロジェクトに40台で就いていなくてはならないと漠然と考えていたように思います。「40にして惑わず」をめざしていました。しかし、実際にはそんな悟りの境地にはほど遠いのが現状ですが、仕事上では「不惑」を演じなければならない局面も多いのですが.... ですから、宮崎哲弥が45歳になっても『大人になったら何しようかなあ』と考えていると聞いて少し安心し、親しみを感じています。

40歳台になっても『大人になったら何しようかなあ』と考えていることは必ずしも人間的に未熟であるということではないと思います(自己弁護を兼ねて)。その根底には、仕事を一生懸命にすればするほど、つまり修行に励むほど『大人になったら何しようかなあ』感が逆に強くなること(もしくはいっこうに解消しないということ)があるのではないでしょうか。どうしてでしょうか? 私はソフィアバンクの田坂広志氏の次の言葉にヒントがあると思います。田坂氏は「仕事の報酬とは何か?」という問いに次のように答えています。

仕事の報酬とは成長である。


科学での新しい発見は往々にして「答え」よりもさらなる新しい「問い」をもたらします。それと同様に仕事の報酬としての自己成長は「不惑につながる答え」よりも「可能性としての新しい問い」をもたらし、『大人になったら何しようかなあ』のサイクルを回し続けるのではないのでしょうか。




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パオロマッツアリーノ著「つっこみ力」は家政法経学院大学(カセイホウケイ ガクインダイガク)での講演録という若干ふざけた形態をとっているが、メディアリテラシーやサイエンスコニュニケーションに関する非常に鋭い批判(つっこみ)であります。

ディベートなんてのを中高生にやらせている学校もありますけれど、あれもどうかなと思うんですよね。ディベートってのは、お互いが公平な立場で、同じ土俵に立って議論するというルールを設定しているから、理論力を使ったある種のゲームとして成り立つんであって、ありゃ、ファンタジーなんです。魔法の呪文がハリーポッターの小説の中でしか効果がないように、議論もディベート大会の会場でしか役に立ちません。実社会では公平な立場で議論をする機会などないぞ、と釘をさしておかないと、オトナになってから痛い目に遭うのは生徒のほうです。



ディベートがファンタジーにすぎないという意見は、そんな事は百も承知だというかたもいらっしゃるでしょうが、私は米国で研究者としてやっていく中では、正論でディベートすることの力強さを思い知らされる多くの機会を経験してきました。(サイエンスは実社会ではなく、それ自体ファンタジーだと言われればそれまでですが...)研究者は正論でディベートする能力を高めるトレーニングは絶対に必要だと思います。論文やグラントでは大まじめに正論を書かないと相手のこころには響きません。NIHは研究費を「人類の健康の増進に広義で貢献する臨床および基礎研究」に配分しています。全く照れる事なく自分の基礎研究が将来病気の治療や予防に役立つと書かないと高い評価を得ることは難しいでしょう。その意味で、正論は最も安全なアプローチであるとも考えられます。安心感があるため、力強いと感じるのでしょう。

....周囲の人から「あの人、いつも正論ばかりいってて、つまんないよね」と烙印を押されてしまった日にゃあ、いたたまれないじゃないですか。いままでにないものといえば、さっき笑いの説明のときにいいましたけど、ユーモアでなくギャグでしたね。つまり創造力は、ギャグをいう能力、ぼけの能力です。社会が本当に求めているのはぼけ力のほうなんです。


しかしながら、正論は安全であるが(またはそれゆえ)創造性とは相容れないものなのかもしれません。リクスをとらない限り創造的な仕事はできないと理解できます。ユーモアとは従来の正論の枠をはみ出さない範囲での研究であり、ギャグとは従来の考えをひっくり返すようなインパクトのあるブレークスルーに相当するのだと思います。(研究者は創造性のヒントをお笑いから学べると言うN先生の言葉を思い出しました。)

凡人や秀才は、自分一人の力でヒーローになろうとしてはいけません。つっこみ力使って、ボケの盛り立て役に徹すればいいのです。そうすれば、結果的に自分にもスポットライトがあたるんですから。

天才、異才、奇才がぼけ力で新たな価値を生み出し、秀才や凡才はつっこみ力でそれを盛り上げ、価値を高めていく。これで社会をおもしろくしていこうではありませんか。



時としてあまりにも独創的で斬新な仕事(ボケ)は正しく理解されません。それを社会が理解でき、利用できるようなかたちに落とし込むことが研究者のつっこみ力でしょうか。



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Authoratory.comは北米で最大級のバイオ研究者のプロファイルのデータベースであり、現在289,943人の研究者がリストされています。Authoratory.comの最もユニークな点はPubmed(世界最大の科学論文データベース/サーチエンジン)のデータをコンピュータプログラムで自動処理して構築されていることです(注1)。

Authoratory.comのおもしろいところは、Pubmed上での論文のタイトル、アブストラクト、MeSH keywordsよりキーワードを抽出し、特定のキーワードに関する論文の頻度より研究者をランク付けし、上位200人程度をエキスパートと”勝手に”認定しているところです。これがAuthoratory.comのキャッチコピー

Authoratoryーfind an expert in any field


の所以です。

ランク付けは単純にそのキーワードを含む発表論文の数により決定され、内容(例えばジャーナルインパクトファクターなど)は一切考慮されていません。これは短所でもあり、長所でもありますが、その定義よりAuthoratoryのエキスパートとは継続して特定のテーマに貢献し続ける研究者のことであり、一発屋ではないということでしょう。

私は自分の研究領域である"integrin"、”lymphocyte function-associated antigen-1"、"cell adhesion"などでは”エキスパート”にランクされ安心しています。自分の領域の”エキスパート”をみてみるとおおよそ1/3程度は納得できる人選になっているように感じます。

Authoratoryは自動プログラムにより構築されているので、内容は完璧と言う訳には行きませんが、自分の領域以外の研究者とのネットワーキングやコラボレーションのきっかけを生み出すツールとしておもしろいのではないでしょうか。

(注1)2000~2007の間に、Primary author (ぼぼcorresponding author)として論文を発表しているか、年間3報以上の論文を発表している米国、カナダ、英国所属の研究者を選択

関連エントリー:
Pubmedを賢くする
http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-85.html

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朝日新聞に掲載された広告「天職の見つけ方」でスポーツジャーナリスト二宮清純氏の談:

私はよくスポーツ選手を四つのランクに分けます。
 「超一流」の選手は、イチローのような、ほとんどパーフェクトな一部の天才。
 「一流」は、確実に失敗を糧にでき、次のステージに行ける人。
 「二流」は、同じ失敗を何回も繰り返す人。だから私などはたぶん二流になると思うんですけれども(笑い)。
 その下に「三流」、失敗を恐れて何もやらない人。これはどうしようもありません。「失敗をしない」ということは「成功もしない」ということですから。
 私は失敗の数だけ成功があると思っています。人それぞれやりたいことは違うと思いますが、すべてにおいて「チャレンジする」ことは尊いことだと思います。


「失敗を恐れずに挑戦する」ことは素晴らしいことでが、おそらくこれは「情熱」と「無知 (innocent)」のなせる技であり、30代前半までのアプローチであると思います。30代半ばを超え、年齢とキャリアを重ねるにつれて人は「無知」ではいられなくなり、「失敗の怖さ」を学ぶものです。30代後半になっても「情熱」を持ち続けることは「挑戦」には不可欠です。しかし、若さにまかせてがむしゃらに挑戦していた時とは違うアプローチが必要でしょう。それは「失敗を恐れながら挑戦する」ということです。

米国上院議員で、ベトナム戦争ベテランでもあるJohn McCainによれば、”勇気”とは:

勇気とは恐怖を感じないということではない。勇気とは恐怖を目の前にしてなお行動できることだ。
ーCourage is not the absence of fear, but the capacity to act despite fearsー



では、どうすれば「失敗を恐れながら」も「挑戦する」”勇気”をもつことができるのでしょうか。

ひとつは、「リスクをテイク」するのではなく「リスクをヘッジ」する術を身につけるということでしょう。リスクテイクは30代前半まで、それ以降はリスクヘッジというのが私の考えです。若いうちにリスクテイクした経験から、リスクヘッジする術を学ぶこともできるでしょう。また、リスクテイクした経験からえた人脈は、リスクヘッジする上での最も大きなファクターとなるでしょう。

もうひとつは長期的視野で考えることです。30代後半を過ぎてもまだまだ人生なかばです。わたしはJohn McCainの上記の”勇気”の定義とともに次の言葉も大好きです。

勇気ある選択をしたほうが、長期的には遥かによい結果をもたらす。
ーIn the long run, you're far better off taking the courageous path.ー


「ローリスク/ローリターン」と「ハイリスク/ハイリターン」の仕事上の選択をまえにしたとき、この言葉を思い出すようにしています。



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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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