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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
現代はバイオレンスの時代なのでしょうか?ひとはより暴力的になってきているのでしょうか?20世紀(+21世紀)を”恐怖の世紀”と形容した多くの文献やドキュメンタリー、毎日のようにCNNから伝えられるテロリズムや内紛による死亡者数の情報を聞くにつけ、この問い(ひとはより暴力的になってきているのか?)に対する答えはYESであると感じていました。今回のTED Talkでは、ハーバード大学の心理学教授で認知科学者でもあるスティーブン・ピンカー(Steven Pinker)氏がこの問いに挑みました。ピンカー氏は”A brief history of violence”と題したトークで、人類の歴史を千年、百年、十年というスケールでみたときに、ひとはより暴力的になってきているのかという問に”客観的”なアプローチで取り組んだ意欲的な内容です。

ピンカー氏のアプローチは非常に単純でストレートです。彼は様々な歴史的資料を紐解き、各時代の暴力の被害者数を数え、現代のアメリカの数字と比較しました。そして、多くの人の認識に反して、ピンカー氏のデータは暴力による被害者(死者)の頻度は千年、百年、十年のすべてのスケールで著しく減少してること示しています。(ピンカー氏の比較は頻度に基づいています。したがって、100人の10%である10人が殺された時代と、100万人の0.1%である1000人が殺される時代のどちらが暴力的かは議論の余地がありますが....)

この数字をサポートするものとして、例えば中世にはCat burningと呼ばれるような残酷な娯楽が現在は消滅してしまったということや、中世では現在は考えられないような非暴力的な罪に対して死刑が広く適応されていたことをピンカー氏は指摘しています。

人間は非暴力的(平和的)になってきているということです。

ピンカー氏の結論が正しいとすれば、どうして多くの人の認識はそれとは逆なのでしょうか。その一つの可能性として、(共同通信などの)メディアの取材力とインターネットよる情報伝達力が、バイオレンスを過剰に受け手側に伝えるため、人の認識にバイアスが係っていることを指摘しています。

さらにもう一歩進んで、ピンカー氏の結論が正しいとすれば、どうして人間は非暴力的(平和的)になってきているのでしょうか。彼は一つの可能性としてインターネットなどのテクノジーの進歩の影響をあげています。かっては他者から何かを奪うことにより、自分が利益を得るという”Zero Sum 社会”でしたが、現在はウィキノミクス(Wikinomics)で指摘されているようなマス・コラボレーションが可能になり、他者と争うよりも協調することで両者とも利益を得ることができるWIn-WInの”Non-Zero Sum 社会”に移行しているためであると考えられます。テクノロジーは世界を平和にするということでしょうか。

どうぞ週末にピンカー氏のトークを。かれのトークは非常にProvocativeであり、われわれに新しい論点を提起してくれます。(ただし、後半で原爆投下を不適切にパロディーとして使用した一節があります。米国の原爆に対する認識の違いを感じさせます)






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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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