とんでもなく優秀な青年(ポスドク)に、いろいろと教えられた。すでに、ニューヨークとボストンでファカルティーのオファーを得ているが、さらに条件の良いところを求めてハーバードにやってきた。彼はなんとあのK99/R00の最初の受賞者である。
NIHの
”The Pathway to Independence Program (K99/R00)"は2006年度から開始されたポスドクの独立を促進するための新しいフェローシップ/グラントのハイブリッドプログラムである。K99フェーズではポスドク時のサラリーと少しの研究費を、そしてPIのポジションを得ればR00フェーズでは年間25万ドル(約~3000万円)が与えられる。これだけで研究室を運営するのは難しいが、雇用主の大学にとっては投資(スタートアップパッケージ)が少なくてすむのでインセンティブになるし、なによりK99/R00の審査は厳格でcompetitiveであるので、受賞すること自体非常に高い研究者としての評価になる。K99/R00の受賞は今後エリート研究者の王道となる可能性があるが、その第一期生約50名がアナウンスされた。約50名とは各州1人の計算になる。
先日K99/R00の受賞
者と食事をする機会があったが、やはりすごい。私より10程若い青年であるが、こいつにはかなわないと感じてしまった。
まず、まったく物怖じしない。セミナーのあとかなりタフな質問にもまったく動じない。質疑応答にもすきがなく、驚いたことにah, uh, um, you know, like..が filler wordsをほとんど使わない。学生の時に格闘技をやっていたと聞いてすこし納得したが.....
そして彼の最大の強みは、自分の研究の意義をサイエンスの大きなコンテクストにおくことに非常に長けているということだ。彼のテーマは簡単にいえば、免疫系のレセプターのシグナル伝達の制御機構の解明である。多くのセミナーでは、まず具体的に自分の研究している分子(例えばサイトカインレセプター)がいかにユニークで、医学的に重要(病気に関与している)であるかを最初の数枚のスライドでバックグラウンドとして話す場合が多い。しかし、彼は約50分のセミナーの最初の10分はむしろフィロソフィカルなaugmentで生物学での大きな問題は何かを話し、自分の研究している免疫系の分子はその大きな問題を解くためのモデルであると見事に言い切った。
道を究め、専門家になろうとする道のりで最も陥りやすい罠が”いわゆる専門バカ”である。”いわゆる専門バカ”かどうかの鑑別法のひとつが、自分の仕事の意義を大きなコンテクストにおくことができるかどうかである。
ただし、研究者が”いわゆる専門バカ”であっはならないかというと、必ずしもそうではない。”専門バカ”でもアウトプット(論文)があるかぎり、オープンソースのはしりでもあるPubMed searchでスマートなだれかが”専門バカ”の仕事をヒットし、大きなコンテクストに置いてくれるかもしれない。クレジットの大部分は持って行かれるかもしれないが、人類に貢献できることに違いはない。
PS: 余談ではあるが、かれはK99/R00受賞後数日間で100人以上のまったく面識のないポスドクからメールで、受賞した申請書を手本にしたいので見せてくれと頼まれたそうだ。その100人はとても厚かましいと思うが、ハングリーですごい!!(いい感じである)。
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