ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
医学部は医者を造るところではなく、臨床医である「医療者」と科学者である「医学者」を両方造るところであるとは、九州大学の中山先生のお考えであり、私も同感である。しかし、最近は医学部を卒業したひとに「医療者」でも「医学者」でもない、第3のキャリア・パスが少しづつではあるが認められつつある。

[例:David O氏] 昨年の暮れに友人の紹介でDavid O氏とケンブリッジで食事をする機会があった。Davidはハーバード・カッレジを卒業後、ハーバード大学医学部ーMITのジョイントプログラムでM.D.と Ph.D.を取得したのち、すぐにマサチューセッツ・ケンブリッジにあるコンサルティングファームに入り、現在プリンシパルとしてバイオファーマの経営戦略を担当している。カジュアルなスーツを着こなし、会話も非常にうまい。

ここ数年理系のPh.D.やポスドク、M.D.を求めて数多くのコンサルティングファームがハーバード大学医学部でキャンパス説明会を行っている。この中にはマッキンゼーやボストンコンサルティンググループなど日本でよく知られた大きなファームも含まれている。詳細は実験医学を見ていただきたいが<http://www.yodosha.co.jp/book/4758100205.html>、コンサルタントの仕事の魅力は給料が高いこと(マッキンゼーでは年収1000万円以上から)、知的であり、自分の仕事の経済に対するインパクトがすぐに体感できる、などなどである。

少し前までは、MBAホルダーを中心にした文系集団がコーポレート・ラダー(出世街道)を上っていき、理系はアナリストやエンジニアとして重宝がられてもマネージメントの中心には食い込めないことが多いと考えられてきた。しかし、製薬会社やバイオテックのコンサルティングを行っているファームではM.D.や理系Ph.D.出身者がMBAホルダーと同等の上級マネージメントのポジションに就くことが多くなってきているらしい。

少なくともこのように理系研究者のキャリア・パスが多様化するのはよいことだと思う。見かけの華やかさにとらわれてコンサルタントを目指すのは得策であると思わないが、アカデミックなポジションを目指す理系研究者にもビジネスセンス、とくにセルフ・キャリアマネージメントは身につける必要があると思う。
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実験医学のラボレポートを読んで後輩のY先生から久しぶりにメールをいただきました。彼とは10年ほど前に大学病院で一緒に激務をこなした戦友です。非常にポジティブ&パワフルな人物で、大学院時代に基礎医学研究のおもしろさを知り、その後臨床をはなれ、トップレベルの日本の基礎研究室で数年すごし、もうすぐ海外へポスドクとして修行にでるそうです。医者には戻らず研究者としての独立を国境を問わずに目指すということ。私はY先生を応援したいと思います。

人は大学を出て数年間のインプリンティング(刷り込み)が非常に強く、多くのひとはそこから離れることがなかなかできません。またいったん離れてもまた最初の職業に(または研究領域に)引き戻されてきます。つまり、いったん職業人としてのアイデンティティーが形成されてしまうと、その領域外に出ること「change」には大きなエネルギーと痛みを要し、どうしても「Play safe」に陥りがちです。これは、私の私見ですが多くのひとが同意してくれます。

具体例としては(私の例では)、臨床医としてある程度の経験を積んだ後に基礎医学に転向するような選択を迫られた場合には、非常に悩んだ末に、
1)「臨床医が助けられるのは目の前の患者だけであるが、基礎医学研究は何十万人の患者を救う可能性がある。」などの自分のなかでの理由付けをしたのち、
2)「もし基礎医学でだめでも、(腐っても鯛なので)また臨床医に戻れば何とかやっていける。」と逃げ道をつくり、失敗の恐怖をやわらげます。
この、(2)の逃げ道がキャリア・キラーです。

問題は2つあります。「変化」に対する恐怖を克服し、前に進むための「一時的な」逃げ道はよいでしょう。しかし、まず「腐っても鯛」という仮定がまちがっています。専門知識や技術が急速に変化している現在、医者のような技術専門職では患者様に満足してもらえるパフォーマンスを発揮するためには「腐っても鯛」ではなく、「腐ったらだめ」なのです。医者には戻れるでしょうが、自分も他人も納得させるプロのパフォーマーには戻れないでしょう。(これと同様に、「Ph.D.をとって研究者としてだめなら、高校の教師にでもなる」という論調を聞いたことがありますが、教育者としてのトレーニングなしに、教師としてパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう)

そして、次にこれがキャリアには最も大事なことですが、逃げ道を作っているかぎりプロフェッショナルとしては成功しません。「退路を断ち」困難に直面しなければプロフェッショナルにはなれないのです。「退路を断った」にもかかわらず「多少失敗しても何とかなる」というような根拠のない自信とオプティミズムが(ある意味バカと紙一重ですが)プロフェッショナルとしての成功の必要条件だと思います。

Y先生のメールからは「自信とオプティミズムが」があふれていました。Y先生は絶対に成功します。

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ハーバード大学医学部にある私の研究室のラボレポートが羊土社・実験医学2月号に掲載されました。<http://www.yodosha.co.jp/book/4758100205.html>

タイトルの「たった一つのこと」というのはMarcus Buckinghamの「The One Thing You Need to Know About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual success」からヒントを得たものです。

米国で研究室を始めるには、サイエンスのアイデアだけでなく、英語力、ネットワーク、グラントライティングなど数多くのクリアすべき課題がありますが、ラボレポートでは、そのすべてのことの大前提となる必須要件を伝えようとしたつもりです。ぜひご一読あれ。

また、実験医学には「私が名付けた遺伝子」いう、他の英語のレビュー雑誌にはない非常にユニークな連載記事があます。2月号では聖マリアンナ医大の中島利博氏が関節リュウマチのメディエーターのひとつであるSynoviolin (Syno + Violin!!)の発見について語っておられます。

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1月23日のエントリー「研究者としての独立Change or Die <http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-1.html#more>」で大学院生からポスドクへ、ポスドクからPIへと少なくとも2回研究プロジェクトを変更する必要があると述べました。ほんとに強い興味があるのならば全く違うプロジェクトに挑戦するのもよいでしょう。しかし、自分のStrengthsを生かしつつ、[Zoom]していく具体的なアプローチとして私が薦めるのは、プロジェクトの「研究テーマ」または「研究手法」のどちらか一方で、新たな領域に挑戦するというものです。

例えば「Oncogene」を「ノックアウトマウス」で研究してきたのなら、テーマは同じで手法を変える、つまり「Oncogene」を「ゼブラフィッシュ」や「結晶構造解析」で研究するか、逆に研究手技は同じ「ノックアウトマウス」を使い、違ったテーマ「神経の発生」や「脂質代謝」などを研究するという具合です。これは[Zoom]より一歩進んだ「一方の足は支点として動かさず、片足だけ動かす方法ですので、ここでは[Zoom Plus]と呼ぶことにします。(注:[Zoom]とは両足とも動かさずに手だけ伸ばして変化を享受するという、「変化」に対するほとんどストレスフリーのトレーニングです)。[Zoom Plus]では変化のための苦しみは伴いますが、自分のStrengthsのうえに立つことで、短期間で成長することができるので、「変化の痛み」を「成長の喜び」にかえることができます。

私は大学院では、「接着分子」を「ウサギ」で研究していました。ポスドクでは「接着分子」に「結晶構造解析」の手法でとり組みました。PIとしては「接着分子」を標的にした「ドラッグデリバリー(ケミカル・エンジニアリング)」に挑戦しています。このように振り返ってみると結果的に[Zoom Plus]を実践してきたことになります。

とくに、PIとして独立する際には、全く今までの仕事と関係のないプロジェクトでは、業績(発表論文)がないのでNIHグラントをとるのが困難ですし、ポスドクのときと同じようなことをしていたのではボスが直接の競争相手になってしまいます。その意味で[Zoom Plus]を使えば、ポスドクの業績を生かしつつ、ボスとの直接対決を避けることができます。

ぜひ、[Zoom Plus]を試してください。

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金曜日の夜のハーバード大学医学部の研究室群のあるArmenise Buildingの風景です。ハーバードでは金曜の夜や週末も日本と同様に多くの研究者が休まずに研究室で働いています。ロードアイランド州のブラウン大学医学部に土曜日に友人の研究室を訪ねたときに、まったく誰も研究棟にはおらず、ハーバードとの違いを感じたことがあります。
Armenise Building

昨日ポスドク研究テーマを選ぶ際には、その人の長所・強みに投資し、弱点の克服には焦点を合わせないstrength-based アプローチのことを話しました。このアプローチはポスドクに対してだけでなく、幅広く自分自身の仕事の仕方についても適応することができます。しかし、ここで問題になるのがはたして何人の人が自分の強みを正しく理解しているでしょうか。自分で自分のことを正しく評価するのは、往々にして非常に困難です。他人の資質を的確に評価できるひとが、自分のことになると全く過大または過小評価することのなんと多いことでしょうか。
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ハーバード大学医学部は、Quadと呼ばれる長方形の芝生の広場を囲むコの字型をしており、Quadの奥には医学部のシンボルであるGordon Hallが位置します(写真)。Quadは多目的広場として使われ、普段は学生がサッカーなどして遊んでいますが、卒業のシーズンには巨大なテントが設営され卒業式会場に変わります。
Gordon Hall

ラボを自分で始めるまでは、医学部と大学院では幅広く自然科学と医学の教育とトレーニングを受けてきましたが、いわゆるビジネスの教育を公式に受ける機会はありませんでした。しかし、ラボを運営することはスモールビジネスと同じであり、サイエンスをする力だけでなく、マネージメント、グラントライティング、プレゼンテーション、ネットワーキングなどなど普段理系の授業では学ぶことのほとんどないスキルセットが本当に重要であることがわかってきました。
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スターバックスから見た、ハーバード大学医学部関連の病院の1つボストン小児病院。病院の正面にあるこのスターバックスで毎朝コーヒーを買うのが、日課です。
Children’s Hospital Boston & Harvard Medical School

今日はポスドクの候補者の面接でした。アメリカでのポスドクの候補者の面接は通常一日がかりです。私のラボでのパターンは、午前10時頃に候補者に来てもらい、オフィスで1時間ほどスモールトークを交えて話をします。その後、候補者をラボに案内し、ラボメンバーの一人と30分から1時間ほど話をしてもらいます(インディビジュアル・インタビュー)。その後セミナールームで、今までの研究内容(普通は博士課程で行った研究内容)を1時間ほどでプレゼンテーションしてもらいます。質疑応答を終えると、昼食を一緒しながら面接は続き、午後から残りのラボメンバー全員とインディビジュアル・インタビューをして、午後5時頃に再び私のオフィスで締めの面接を30分程します。そして、結果は数週間以内にメールで知らせると伝え面接が終了します。合否の決定は、ラボメンバー全員の意見と、推薦状を参考にして行います。
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昨日よりボストンは雪です。写真は Vanderbiltホールの中庭にあるテニスコートが雪に覆われている様子です。後ろに見えるガラス張りの建物は、ボストン小児病院の研究施設 The Karp Family Research Laboratories buildingで、Angiogenesisで有名な Dr. Folkmanの研究室が入っています。
Vanderbilt Hall


さて、昨日にひきつづき「変化」について書いてみます。村上龍氏のカンブリア宮殿で、ゲストにピーチ・ジョン社長の野口美佳氏が出演していた時のことです(ボストンでもDVDで、ほとんどの日本の番組を見ることができます)。会場から「成功するためには、苦労は買ってでもした方がよいですか?」というような趣旨の質問がありました。両氏とも回答は、「成功するためには、失敗は必要であるが、必ずしも苦労はする必要はない」というものでした。
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米国ではふつう研究者はそのキャリアで、少なくとも2回は研究テーマを変更することを必要とされる。1回目は博士号を取ったのち、研究室を移り新しい指導者のもとで、新しいテーマでポスドクをはじめ自分の知識と技術を広める。2回目は独立して研究室を始める時であり、今まで指導者のもとで行ってきた仕事に別れを告げ、自分の新しいテーマを探求する。
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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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