アカデミック・キャリアパスで研究者が切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
現代はバイオレンスの時代なのでしょうか?ひとはより暴力的になってきているのでしょうか?20世紀(+21世紀)を”恐怖の世紀”と形容した多くの文献やドキュメンタリー、毎日のようにCNNから伝えられるテロリズムや内紛による死亡者数の情報を聞くにつけ、この問い(ひとはより暴力的になってきているのか?)に対する答えはYESであると感じていました。今回のTED Talkでは、ハーバード大学の心理学教授で認知科学者でもあるスティーブン・ピンカー(Steven Pinker)氏がこの問いに挑みました。ピンカー氏は”A brief history of violence”と題したトークで、人類の歴史を千年、百年、十年というスケールでみたときに、ひとはより暴力的になってきているのかという問に”客観的”なアプローチで取り組んだ意欲的な内容です。

ピンカー氏のアプローチは非常に単純でストレートです。彼は様々な歴史的資料を紐解き、各時代の暴力の被害者数を数え、現代のアメリカの数字と比較しました。そして、多くの人の認識に反して、ピンカー氏のデータは暴力による被害者(死者)の頻度は千年、百年、十年のすべてのスケールで著しく減少してること示しています。(ピンカー氏の比較は頻度に基づいています。したがって、100人の10%である10人が殺された時代と、100万人の0.1%である1000人が殺される時代のどちらが暴力的かは議論の余地がありますが....)

この数字をサポートするものとして、例えば中世にはCat burningと呼ばれるような残酷な娯楽が現在は消滅してしまったということや、中世では現在は考えられないような非暴力的な罪に対して死刑が広く適応されていたことをピンカー氏は指摘しています。

人間は非暴力的(平和的)になってきているということです。

ピンカー氏の結論が正しいとすれば、どうして多くの人の認識はそれとは逆なのでしょうか。その一つの可能性として、(共同通信などの)メディアの取材力とインターネットよる情報伝達力が、バイオレンスを過剰に受け手側に伝えるため、人の認識にバイアスが係っていることを指摘しています。

さらにもう一歩進んで、ピンカー氏の結論が正しいとすれば、どうして人間は非暴力的(平和的)になってきているのでしょうか。彼は一つの可能性としてインターネットなどのテクノジーの進歩の影響をあげています。かっては他者から何かを奪うことにより、自分が利益を得るという”Zero Sum 社会”でしたが、現在はウィキノミクス(Wikinomics)で指摘されているようなマス・コラボレーションが可能になり、他者と争うよりも協調することで両者とも利益を得ることができるWIn-WInの”Non-Zero Sum 社会”に移行しているためであると考えられます。テクノロジーは世界を平和にするということでしょうか。

どうぞ週末にピンカー氏のトークを。かれのトークは非常にProvocativeであり、われわれに新しい論点を提起してくれます。(ただし、後半で原爆投下を不適切にパロディーとして使用した一節があります。米国の原爆に対する認識の違いを感じさせます)






テーマ:世界観 - ジャンル:学問・文化・芸術

Richard Rileyによると2010年に最も必要とされる職業のトップ10は、2004年の時点では存在すらしていない。今私たちは、「今は発明すらされていないテクノロジー」を使って「今は問題であるということすら知りえない問題」を解決するための「今は存在すらしない職業」に向けて学生を教育しているのだ。(ムービーShift Happensより)

According to former Secretory of Education Richard Riley...

the top 10 jobs that will be in demand in 2010 didn't exist in 2004.

We are currently preparing students for jobs that don't yet exist...using technologies that haven't yet been invented...in order to solve problems we don't even know are problems yet.



Extremely inspiring!!
この6分あまりのムービーは、一冊の読書に匹敵する。
世界を見る目が少しだけ変わるかもしれない。




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テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

NHKの「プロフェショナル 仕事の流儀」でMIT教授でコンピューター研究者の石井 裕氏の生き様に感銘を受けた。石井氏は「Tangible」というコンピューターの「Virtualな世界」とは一見相反するような概念を打ち立てたアグレッシブでオリジナリティーにあふれた研究者である。

彼の発した数々の言葉:
「出過ぎた杭は誰にも打てない」
「オリジナルこそ、命」
「WHY?(なぜ)」
「自分は凡人」
「超えるべき壁は、自分」
はもちろん非常に印象的であり、番組のホームページで取り上げられている。

しかし私が最も感銘を受けたのは、石井氏が38歳のときに、MITのメディアラボにリクルートされ赴任した時に、元MITメディアラボ所長 ニコラス・ネグロポンテ氏が石井氏にかけた言葉である:

(今までの)実績を捨て、新しい研究で勝負しろ

さらに、インタビューでネグロポンテ氏は次のように語っている。

It is very Japanese to be incremental.

It's also very Japanese to build on one success the next success

It's was culturally perhaps the more natural thing for him to do is to continue what he had been doing before

….(To breakthrough, he should) not just work on the previous project but really take the chance to start over…..


ネグロポンテ氏の言葉に目から鱗が落ちる思いがした。私は日本人研究者は「conservative」というのはどうもしっくりこず、適切な表現探していたが、「incremental」は実に本質をついている。「incremental」は着実に一歩一歩進むことで、日本では一般にむしろポジティブな意味合いがあるかもしれない。しかし、エッジで生き残ろうと思えば「incremental」ではだめなのだ。

新しく独立したプロジェクトを始めるときには、過去の業績、過去にエスタブリッシュした実験系、reagentsを利用して、とりあえず何らかの成果を素早く出したいと思いがちである(play safe)。しかし、play safeしたいその時こそ、実は全く新しいことを始められる数少ないチャンスの時なのである。ゼロ近くから新しいことを始めれば(experimental biologyでは)数年は業績が出ないであろう。しかしbreakthroughするためには、そのストレスと失職の恐怖に耐える信念と情熱が必要条件ではないだろうか。

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Yahoo の元副社長(VP of Direct Marketing)でマーケティングのカリスマであるセス・ゴーディン(Seth Godin)は、ズーム [Zoom] の提唱者でもある (1/28のエントリー参照)。彼のマーケティング論はビジネスパーソンのみならず理系研究者のキャリア・パス形成にも応用できる。彼のメディアとブログに関する最新刊「Everyone is an Expert (about something)」(Amazon.comで$9.99、約¥1,200) がセスのサイトから無料でダウンローできる。英語であるが、絵入りで32ページと短く1日で読める。
(http://sethgodin.typepad.com/seths_blog/2007/02/please_dont_buy.html)

Seth Godin要旨は:
#1. 「small is the new big」で述べているように、インターネットとブログの出現により、巨大であること(巨大企業、そして私見では巨大医局、巨大研究室も)の優位性は消滅し始めている。 個人または小さい組織であることが今後は有利になる。

#2. インターネットのサーチエンジンで人が探しているのは情報ではなく、meaning (= what makes sense to you)である。

#3. Meaningへの“道しるべ”としてレンズ[Lense]という概念を提唱し、かれのサイトsquidoo.comで個人がexpertとなり発信できるページ[Lense]を誰でも開設できる。


理系研究者にとっても#1を認識することは非常に大切で、いったん大学や研究所で常勤の職に就けば、上司に従い、その組織内での昇進のみに集中していればよい時代は完全に終わってしまった。組織での経験が長いひとにとっては、個人でのキャリア形成の必要性を認識することはストレスであるが、セスの言葉は刺激的かつ個人を勇気づけてくれるので、ぜひご一読を。


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ボストンハーバード大学医学部に近いスターバックスでもホットサンドの販売が1月31日より始まった。この日はどの店でも店員の数を増やしホットサンドの調理に対応していた。日本のスターバックスでは以前よりホットサンドを販売しているらしいので、とりたてて目新しいことではないと思われるだろうが、私は少し驚いた。
スターバックスのホットサンド

Photo credit (http://www.slashfood.com/2006/06/09/starbucks-breakfast-sandwich-taste-test/)

スターバックスのCEO Howard Schultzが1997年に書いた「Pour Your Hear into It: How Starbucks Built a Company One Cup at a Time」は、私が感銘をうけた本のひとつである。この本を読んで、Howard Schultzがいかにスターバックスコーヒーの味や香りにこだわりをもっているのかを知り、ますますスターバックスが好きになった。この本のなかで、彼は「店内ではホットドッグなど調理時に強いにおいのする食べ物は、コーヒーの香りを損なうので販売しない」と述べていた。

「Pour Your Hear into It」から10年、スターバックスは常に実験し変化し続けている。Core Valueを守り続けることは大切であるが、決して固執はしない。ホットサンドはコーヒーの香りを店内で楽しみたいスターバックスファンを失うかもしれない。しかし、スターバックスは変化や失敗をおそれず、[Zoom] / [Zoom Plus]している。


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実験医学のラボレポートを読んで後輩のY先生から久しぶりにメールをいただきました。彼とは10年ほど前に大学病院で一緒に激務をこなした戦友です。非常にポジティブ&パワフルな人物で、大学院時代に基礎医学研究のおもしろさを知り、その後臨床をはなれ、トップレベルの日本の基礎研究室で数年すごし、もうすぐ海外へポスドクとして修行にでるそうです。医者には戻らず研究者としての独立を国境を問わずに目指すということ。私はY先生を応援したいと思います。

人は大学を出て数年間のインプリンティング(刷り込み)が非常に強く、多くのひとはそこから離れることがなかなかできません。またいったん離れてもまた最初の職業に(または研究領域に)引き戻されてきます。つまり、いったん職業人としてのアイデンティティーが形成されてしまうと、その領域外に出ること「change」には大きなエネルギーと痛みを要し、どうしても「Play safe」に陥りがちです。これは、私の私見ですが多くのひとが同意してくれます。

具体例としては(私の例では)、臨床医としてある程度の経験を積んだ後に基礎医学に転向するような選択を迫られた場合には、非常に悩んだ末に、
1)「臨床医が助けられるのは目の前の患者だけであるが、基礎医学研究は何十万人の患者を救う可能性がある。」などの自分のなかでの理由付けをしたのち、
2)「もし基礎医学でだめでも、(腐っても鯛なので)また臨床医に戻れば何とかやっていける。」と逃げ道をつくり、失敗の恐怖をやわらげます。
この、(2)の逃げ道がキャリア・キラーです。

問題は2つあります。「変化」に対する恐怖を克服し、前に進むための「一時的な」逃げ道はよいでしょう。しかし、まず「腐っても鯛」という仮定がまちがっています。専門知識や技術が急速に変化している現在、医者のような技術専門職では患者様に満足してもらえるパフォーマンスを発揮するためには「腐っても鯛」ではなく、「腐ったらだめ」なのです。医者には戻れるでしょうが、自分も他人も納得させるプロのパフォーマーには戻れないでしょう。(これと同様に、「Ph.D.をとって研究者としてだめなら、高校の教師にでもなる」という論調を聞いたことがありますが、教育者としてのトレーニングなしに、教師としてパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう)

そして、次にこれがキャリアには最も大事なことですが、逃げ道を作っているかぎりプロフェッショナルとしては成功しません。「退路を断ち」困難に直面しなければプロフェッショナルにはなれないのです。「退路を断った」にもかかわらず「多少失敗しても何とかなる」というような根拠のない自信とオプティミズムが(ある意味バカと紙一重ですが)プロフェッショナルとしての成功の必要条件だと思います。

Y先生のメールからは「自信とオプティミズムが」があふれていました。Y先生は絶対に成功します。

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ハーバード大学医学部にある私の研究室のラボレポートが羊土社・実験医学2月号に掲載されました。<http://www.yodosha.co.jp/book/4758100205.html>

タイトルの「たった一つのこと」というのはMarcus Buckinghamの「The One Thing You Need to Know About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual success」からヒントを得たものです。

米国で研究室を始めるには、サイエンスのアイデアだけでなく、英語力、ネットワーク、グラントライティングなど数多くのクリアすべき課題がありますが、ラボレポートでは、そのすべてのことの大前提となる必須要件を伝えようとしたつもりです。ぜひご一読あれ。

また、実験医学には「私が名付けた遺伝子」いう、他の英語のレビュー雑誌にはない非常にユニークな連載記事があます。2月号では聖マリアンナ医大の中島利博氏が関節リュウマチのメディエーターのひとつであるSynoviolin (Syno + Violin!!)の発見について語っておられます。

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1月23日のエントリー「研究者としての独立Change or Die <http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-1.html#more>」で大学院生からポスドクへ、ポスドクからPIへと少なくとも2回研究プロジェクトを変更する必要があると述べました。ほんとに強い興味があるのならば全く違うプロジェクトに挑戦するのもよいでしょう。しかし、自分のStrengthsを生かしつつ、[Zoom]していく具体的なアプローチとして私が薦めるのは、プロジェクトの「研究テーマ」または「研究手法」のどちらか一方で、新たな領域に挑戦するというものです。

例えば「Oncogene」を「ノックアウトマウス」で研究してきたのなら、テーマは同じで手法を変える、つまり「Oncogene」を「ゼブラフィッシュ」や「結晶構造解析」で研究するか、逆に研究手技は同じ「ノックアウトマウス」を使い、違ったテーマ「神経の発生」や「脂質代謝」などを研究するという具合です。これは[Zoom]より一歩進んだ「一方の足は支点として動かさず、片足だけ動かす方法ですので、ここでは[Zoom Plus]と呼ぶことにします。(注:[Zoom]とは両足とも動かさずに手だけ伸ばして変化を享受するという、「変化」に対するほとんどストレスフリーのトレーニングです)。[Zoom Plus]では変化のための苦しみは伴いますが、自分のStrengthsのうえに立つことで、短期間で成長することができるので、「変化の痛み」を「成長の喜び」にかえることができます。

私は大学院では、「接着分子」を「ウサギ」で研究していました。ポスドクでは「接着分子」に「結晶構造解析」の手法でとり組みました。PIとしては「接着分子」を標的にした「ドラッグデリバリー(ケミカル・エンジニアリング)」に挑戦しています。このように振り返ってみると結果的に[Zoom Plus]を実践してきたことになります。

とくに、PIとして独立する際には、全く今までの仕事と関係のないプロジェクトでは、業績(発表論文)がないのでNIHグラントをとるのが困難ですし、ポスドクのときと同じようなことをしていたのではボスが直接の競争相手になってしまいます。その意味で[Zoom Plus]を使えば、ポスドクの業績を生かしつつ、ボスとの直接対決を避けることができます。

ぜひ、[Zoom Plus]を試してください。

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昨日よりボストンは雪です。写真は Vanderbiltホールの中庭にあるテニスコートが雪に覆われている様子です。後ろに見えるガラス張りの建物は、ボストン小児病院の研究施設 The Karp Family Research Laboratories buildingで、Angiogenesisで有名な Dr. Folkmanの研究室が入っています。
Vanderbilt Hall


さて、昨日にひきつづき「変化」について書いてみます。村上龍氏のカンブリア宮殿で、ゲストにピーチ・ジョン社長の野口美佳氏が出演していた時のことです(ボストンでもDVDで、ほとんどの日本の番組を見ることができます)。会場から「成功するためには、苦労は買ってでもした方がよいですか?」というような趣旨の質問がありました。両氏とも回答は、「成功するためには、失敗は必要であるが、必ずしも苦労はする必要はない」というものでした。
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米国ではふつう研究者はそのキャリアで、少なくとも2回は研究テーマを変更することを必要とされる。1回目は博士号を取ったのち、研究室を移り新しい指導者のもとで、新しいテーマでポスドクをはじめ自分の知識と技術を広める。2回目は独立して研究室を始める時であり、今まで指導者のもとで行ってきた仕事に別れを告げ、自分の新しいテーマを探求する。
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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務. その後, Harvard 大学医学部への研究留学を期に, 非常に迷った末に医局を離れBoston で独立することに挑戦し, 現在ラボ運営に奮闘する.「実験医学」 に”プロフェッショナル根性論”を執筆中.

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